[コメント] 散り行く花(1919/米)
リリアン・ギッシュ、その瞳、その顔、その姿。確かに「美しい」と言えば美しい。だけど、その「美」は、たとえばグレイス・ケリーの宝石のように神々しく近寄りがたい美、グレタ・ガルボの両性具有的かつダイナミックな美、オードリー・ヘップバーンのようなコケティッシュで可憐な美とは違う。それは、言ってしまえば醜さと紙一重な美であり、表情と照明によってその美は多様に変化する。
その醜さと裏腹な美を持つ女優の双璧がベティ・デイヴィスだと思う。ギッシュの見開いた、悪く言えば蛙のような目に、デイヴィスのそれを僕は見た。そして、この『散り行く花』から68年後、リンゼイ・アンダーソン監督の『八月の鯨』で二人は共演することになる。
高校の時、『イヴの総て』を観て、すっかりデイヴィスの虜になった僕は、彼女を目当てにこの『八月の鯨』を観るのだが、それがギッシュとの初対面。恥ずかしながら、前知識なしだったこともあって、映画の中盤までどちらがデイヴィスかギッシュかがわからなかった(今から思えば、デイヴィスがあんなに可愛いお婆ちゃんになってるワケがないのだが)。
だから、「60年以上の時の流れは、その<醜近美>の行く末をくっきりと分けるのだなあ」とか「ギッシュって元々猫背なのかしらん(『八月の〜』では見事に愛らしい猫背)」いうのが、最初の感想。
さて、僕がこの映画を観るきっかけは、くたーさんのコメントを読んでグッときたからで、その「鐘の音」を聞きたいがために、完全に音を消し、耳栓までして見た。(*追記参照)
(「無常だ」…あっ、すでにお書きなってる…。「このわかりやすい表現は」…あっ、これもすでに…。)
それでは、字幕の英語。日本語字幕が邪魔になって読みづらいが、このセリフ以外の英語も美しかった。
ところで、あの父親、どっかで見たことある憎たらしさだなあ、と思ってたら…思い出した!ジムだ!僕がNY留学時代に部屋をシェアしてたルームメイトのおっさんだ!こいつがヤな奴で、しかも潔癖症なのかなんなのか、毎朝、トイレの便座にペーパーをぐるぐる巻きつけてからヤるもんだから、クソ長いのナンのって。「遅刻する〜」と毎朝やきもき。しかも毎晩酔っ払って、女連れ込んで、ウルサイし…って、そんな話じゃなかったな。とにかく、だから、それを思い出したその瞬間から、あの父親には憎さ百倍でした。(笑)
*追記
くたーさんの現在のコメントは赤review付きで書き直されてますが、その前は「どこまでも透明度の高いメロドラマ。聞こえないはずの鐘の音が心に響いた…。」でした。「映画の教科書〜サイレント再考」POVは印刷して取ってあるのです、エヘン(って威張るこっちゃないな)。
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以下、ネタバレ追記
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<暴力>を<暴力>で応じるべからず、「心の安らぎ」を<野蛮>な西洋人に説きたいと夢抱いて、異国に旅立った中国人。現実の生活の中で、その夢を打ち砕かれ、賭博や阿片に溺れ、無為に日日を送るも、薄幸の乙女に恋をする。
そして、手を触れることも躊躇してしまうほど愛した彼女の死を知る。その死を招いた、あの父親の<暴力>に対峙した時、彼は<暴力>で応える。愛する人を失い、己の理想をも失い、すべてを失ってしまった彼には、自ら死を選ぶしかなかったのだろう、と思った。
その言うも言われぬ、もののあはれを、あのギッシュの瞳と最後の笑みに見て、あの鐘の響きに聞く。
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