コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ウォーターボーイズ(2001/日)

「並ばされる」から「並ぶ」へ―その喜びを知った青年のパッツンパッツンに張った肌、水を弾く、弾く!…羨ましい。
muffler&silencer[消音装置]

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







考えてみれば、我々が自らの意志で「並ぶ」という行動を取ることは滅多にない。

「ラーメンのウマい店なんかで並ぶじゃん!あれは自らの意志さ!」などと思われるかもしれないが、あれも、「行列ができる店=ウマい店 → そこに並んでるワタクシ=ウマいもん知っているワタクシ → 一種のステイタス」という公式が心のどこかにあるのではなかろうか。余談ながら、そもそも、行列ができるようになっちゃうと、ウマい店もウマくなくなるのが、是サイマフの定説ナリ。

思い出してみれば、我々は無意識のうちに、いつしか大人の号令の下に「並ばされる」ことに慣れ、自ら「並ぶ」と勘違いしてしまっているのではなかったか。「並ばされる―並ぶ」の対応関係は「生かされる―生きる」に直結する。

「並ぶ」ことを知ることは「成長」ではない。だって、何歳になっても、一度も「並んだ」ことのない大人は五万といるし、相変わらず自分が「並ばされている」ことに気付かない上に踏ん反り返っている大人、気付いていても諦めている大人なんて掃いて捨てるほどいる。今回、自ら「並んだ」ウォーターボーイズだって、高校を卒業し社会に出る頃には、すっかりまた「並ばされる」人間になる可能性は大いにあるし、またそうじゃなきゃ、この世の中生きてはいけない。

でもだからこそ、人生一度でも、自ら「並ぶ」こと、その喜びを知る貴重な体験したウォーターボーイズが、胸がかきむしられるほど羨ましかった。

確かにこの物語には穴だらけだっただが、この「並ばされる→並ぶ」の過程がきちんと描かれていた点で本筋は通っていたので◎。

---------------------------------------------

まあ、「並ぶ、並ばされる、並ばせられる」とそんな舌がつりそうな御託を並べるより、この作品の要は、楽しめるか、楽しめないか。リアリティーなんてのも、本作に求めるのは少々キツいもんがあるもんな。

映画始まってしばらく、ヘッタクソな演技が気になって仕方なく「『タイタニック』吹き替えの悪夢再びか!」とブツブツ文句を垂れ、ベタベタ・マシンガン・ギャグにも、斜に構え「フン」と鼻クソホジホジもんだった。

ところが、あのアフロが燃えるカオス・シーンで、オイラのハートに火がついた。そして、本作で、オイラのハートをキャッチ「愛してるシーン」は、実はラストのシンクロのシーンじゃない。

それは、シーワールド合宿に向かうバスの後部座席で5人が「並んだ」シーン。実際に高校生がカールなんかを食い散らかし大騒ぎしてるバスに乗り合わせりゃあ、舌打ちしつつ呪いをかけつつ飛び蹴り炸裂もんだろうけど、あの一瞬のカットはオイラにとっちゃあ、涙モンのノスタルジーだった。そういう意味で、内容は確かにまんま『フル・モンティ』(及び、その他多くのイニシエーション・ストーリー)だったが、オイラがこの作品を見て思い出したのは『スタンド・バイ・ミー』だった。『スタンド・バイ・ミー』も「並んで」たでしょ?

そういう意味で、ウケを狙ったシーンより、例えば、夕闇迫る丘で自転車で駆けつけ逢引(死語)とか、キレちゃって大声上げなら廊下ダッシュとか、そういうナンデモない詩的なノスタルジック・カットが良かった。きっと、今はオジサンオバサンも、そういうノスタルジック・ツボにハマりやすいように、普通ならありそなイマドキの携帯メール交換シーンが一度もなかったんじゃなかろうか。それがなくても、全然不自然じゃないところがまたスゴい。

本作の登場人物の笑顔が本当に輝いて見えるのは、そういうところにもあると思う。小林よしのりじゃないが、「情報」でつながっている空虚な人間ではなく、ちゃんと「気持ち」でつながっている、つながろうとしている人たちが描かれているから。

言っちゃえば、この映画を見に行くとココロに決めた時点で、ラストのシンクロのシーンに対する期待度はエベレスト級なワケで、にもかかわらず、その期待を裏切ることなく、ちゃんと映画として見せてくれるだけでも矢口監督タダモノではないとオイラは思う。

だから正直、「邦画の将来」なんてチャッチイもんを矢口監督にゃあ背負わしたくないなあ。そーゆーのは、おエライ映画人タチにお任せして、彼にゃあ「邦画」なんてジャンルにとらわれず、とことん矢口ワールドを突っ走っていただきたい。この作品にしても、「邦画を見るんだ」という変な身構えを取り払った方が吉だと思う。

あと言いたいこと…そう、竹中直人。相変わらず、オイラの天敵。こやつ、演技人じゃない、芸人。ちゃんと演技人たる柄本明と並ぶとその差歴然。余談ながら、小泉サンの息子サンには到底無理な到着点。

[10.6.01]

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (11 人)てれぐのしす[*] まご[*] マッツァ[*] 緑雨[*] Myurakz[*] torinoshield[*] アルシュ[*] MUCUN[*] ペペロンチーノ[*] ひるあんどん[*] mize[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。