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[コメント] シャンプー台のむこうに(2001/英)

「老年の一つのひじょうに高級な仕事は人々との和解である。」
muffler&silencer[消音装置]

とは、我が家のキッチンにある日捲りカレンダー、作家曽野綾子さんの言葉。

前の日、よせばいいのに思うところあって10数年ぶりにベルイマン監督の『叫びとささやき』を観て、その絶望感から抜け出したく、貪るように映画を観たくなって選んだのがこの『シャンプー台のむこうに』。

そう、そう!いや〜こういうのが観たかったッス。

とある最近のCMで「女に生まれるのではない、女になるのだ」なんてコピーがあったけど、それは「男」だって「ジブン」だって「家族」にも当てはまりますね。「家族として生まれるのではない、家族になるのだ」って。

近代以前は「家族」の概念は、たとえば、今もマフィアに残るファミリー、血筋だけにフォーカスしたものではなかったと聞きます。人間ひとりでは生きていけないから、愛と縁を介して寄り添うように集まり、一つ屋根の下で暮らす者全員を「家族」と呼んでいたそうです。(その意味では、ムツゴロウさんの動物王国はそんな感じの家族なんでしょうね。)

そういう観念がすっかり崩壊してしまったこの現代でも、やはり人間の奥底で残るその「家族の記憶」が、こうして傷つけあい離れながらも、再会と和解へと、人と人を結び付け合えるようにあるのかもしれません。

確かに、この作品はこじんまりとまとまり過ぎて、粒揃いの俳優も上手く使いこなせていない気もしますし、『息子の部屋』ほど作品としての完成度も高くないかもしれません。それでも、じんわり、何か心をほぐしてくれる、爽やかな気持ちにさせてくれる映画だと思います。

それにしても、やっぱ美容師のハイセンスってワカランちー。皆さんも、きっとおありでしょう?カットに行って、最後にセットしてもらうんだけど、ちょっとやりすぎってカンジで、でも、そこで直すのは気が引けるから、外に出てからショーウィンドーとかでチョチョと直したり(笑)。

オイラにとっては、美容師の言う「美」って、あまりにも作り込みすぎて、手が入りすぎて、息つくところがないんですよね。そういう意味で、Yasuさんの仰るとおり、あのトイレでのシーンは、本当に美しかったですね。

〔★3.75〕

[梅田ナビオシネ5/2.1.02]

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以下、ネタバレ蛇足

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蛇足:

イヴニングがテーマの第二ラウンドで、ママがあの白内障のおばあさんのヘアメイクをし終わって、一息ついているとき、パパが言いますよね。

"a beauty"って。

"beautiful"じゃなくって、"a beauty"。

「老醜」なんて世間じゃ言いますが、僕は、ああいう人生の甘いも酸いも噛み締めた後の、他者と自分との「和解」という高級な仕事をしているおばあさんに、人間としての「美」を見出します。

あの、まだ若いけれど、ブライアンが、髪をばっさり切ったクリスティーナにかける言葉も、きっと、そういう心から「美しい」と感じたから出たものなんでしょうね。

あとラストの「家に帰ろう―"back home"」ってセリフ。「家に帰る」って言葉、僕は大好きです。帰る場所がある、その喜びと安心感。いや〜ホロリときちゃいました。

さ、家帰って仲直りだ。

(評価:★4)

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