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[コメント] LOFT ロフト(2005/日)

監督の動機が「怖いものを作りたい」というものにダイレクトに向かっている感じがしない。 黒沢清を知らない人には薦めたくない一本。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







監督が本心から恐怖的なものを突き詰める時の、徹底した平板さに唐突に割り込む不可知な現象、みたいな気負いが感じられない。作家の家の中のシーンでの、舞台装置の使い方の巧みさは感じるけど、広い屋敷の空間を背に机に向かっているという一般的に訴求しやすい「恐怖ポイント」には目もくれない。朝霧の湖畔や嵐の夜の叢の男女といった怪奇ロマン風の描写をしてみたり、ちょっと監督のいつもの「恐怖描写」とは違う表現が感じたりして、本気でない、というよりは、何かちょっと「怖がらせるっていうこととは違ったこと」を試してみました、みたいな、全般的にはそういう感じがする。

「怖がらせる」ことにあまり重きをおいてないようなこの作品は、ホラーにしては物足りない。いっそサスペンスかミステリならジャンル的にはしっくりくるのだろうが、サスペンスやミステリとしては筋が通ってなくて中途半端だ。そうかといって逆にサスペンスやミステリ的なオチがついたらちょっとがっかりでもある。なんだか何をしたいのかよくわからないって感じだった。有態に言ってつまらなかった。ただ、1970年代以前の建造物の暗さ重さ。とりわけ病室のタイル貼りの壁の質感、サッシでない窓枠の質感なんかはこれ以上ないっていう撮り方で相変わらず見惚れてしまうのだけど、それだけで持っている感じ。

余談だけど、走行中の車内シーンで、車窓の風景を合成っぽく合成するという方法には強いこだわりがあるんだなあ、と思った。車内のセットと車窓の風景の揺れ方がズレて合成っぽく見える=非現実的な印象を与える、というやつ。『CURE』の頃から近作の『トウキョウソナタ』までずっとやっている。これフェリーニの『世にも怪奇な物語』のリスペクトなのかな?

余談2。幽霊役のキャスティングっていうのに有名な俳優をあてるというのはちょっとダメかなと思う。話の展開上後から幽霊役がドラマの重要な役割を担うとなれば、そこそこの俳優でないとだめってことなんだろうが、得体の知れない幽霊がやがて正体をはっきり見せた時に、「ああ、安達祐実」と思っちゃうっていうのはダメなんじゃないだろうか。これ『』の葉月里緒菜の時も思った。生きている人間はどんなに名の通った役者でも、頭の中で劇中の人物と置き換えることはできるのだが、幽霊という「正体不明」をアイデンティティとする役柄は、正体がわかった際に、役者の固有名詞がバーンと出てきてしまうと、一挙に「作り物」である現実に引き戻される感じがする。幽霊だけは、顔がわかってもなおも「誰だかわからない」ほうが本当はいいんだと思う。

(評価:★3)

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