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[コメント] アヒルと鴨のコインロッカー(2006/日)

面白い! これは人に薦めたくなるなあ。邦画が好きでない人なら躊躇してしまうようなタイトルが却って勿体ないくらい。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







…もちろん良いタイトルなんだけど、ちょっと敷居の高い感じがあるかも。

面白さの大部分はプロットにあることは否めなく、「映画的な面白さ」っていう点ではちょっと物足りない感じはあるんだけど、それでも「映像化」として惹かれた部分も多い。

まず風景の描き方。犬を助けたりする場面などで出てくるグリーンベルトのある道路沿いの住宅街、バスの来る時刻だけ瞬間的に人が列をなしあとは誰もいない大学前のバス亭、本屋のスペースだらけの駐車場、彼らの住むアパートのかえって寂しさのつのるピンク色など、地方都市の新興郊外の殺風景な感じ、廃れた感じではなくとにかく人が少ない空虚さ、みたいのが良く出ている。夜遅くまでやっている弁当屋もペットショップもあって、おさおさ便利にそろっているけど、ちょっと行くとハゲタカでも飛んでそうな人もめったに近寄らないスポットがあったり、っていうのも肯ける。

そして配役が良かった。濱田岳、瑛太、関めぐみっていうのがほんとドンピシャ。もちろん演技もとても良かったと思うけど、ルックスとか彼らの背格好とか、それぞれの信条と彼らの顔つきとか相当しっくりしていたと思う。「これだったら本読んだほうがいい」っていうのはプロット主体のドラマに良く起こりがちな感想だけど、そう思わせない、キャスティングががっちり絵としての力強さをつなぎとめているような感じがする。途中出場の松田龍平も良かった。

あと、本作の肝であるところの叙述トリックは、本来は「テキストならでは」のものだったのだろうが、ブータン人に変装する二人の男優のメイクと、松田のやつれファッションを(「遺志を受け継ぐ」からという絶妙な設定で)模倣する瑛太、という演出で「映像ならでは」のお返しをしているのが面白い。この面白さは文章では表現できないだろうから、原作者も喜んだんじゃないだろうか? (それにしても日本の男はみんな中央アジア人になれそうだ)

で、何と言ってもこのシーンっていうのが、琴美に次いで河崎を失いおそらくはずっと部屋に引き篭もって途方にくれていたドルジの耳に聞こえてくる「風に吹かれて」の鼻歌という場面。そこまでの回想シーンの組み方、途方にくれているショットの長さ、歌の聞こえてくるタイミング、ドアを開けると廊下でダンボールをたたんでいる椎名の小さな楽天的な背中、「ディランだ」と言った瑛太の満面の笑み。ここまでの一連のシーンの美しい流れはちょっと鳥肌もの。もはや自分にとって意味のなくなった空き部屋にやってきた男がディランを口ずさんでいたら、こりゃもう神の配剤だと思ってもむべなるかな。このうえなく説得力のある設定は原作のものだとしても、この作品の映像がそれを完璧に表現したと思う。このシーンはこんなに劇的なのに、まったくもって本物だったように感じる。「ネ申キタ-(<古?)」はドルジと同時にこの映画にもキタ。

「自分の本棚の教科書の題名を読んでってくれない?」っていうのを始め、いくつか無理を感じるところがあったけど、ミステリーとしての面白さ、また、異国にてその国の友人を失った者の孤独と「落とし前をつけなくてはならない」異国人ならではの矜持と覚悟という心情に惹かれる。マイナス1点だったのは、その心情の目撃者となる椎名の個人的な受け止め方がよくわからないことによる焦点のボケを感じたから。…かなあ…?

(評価:★4)

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