[コメント] 翼よ!あれが巴里の灯だ(1957/米)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
「一番じゃなきゃだめなんです!」
初めてを狙える位置に居る数名の人物にしかわからないこの気持ち。なかなか多くの人には実感がわかないところかも知れない。飛び立つ日の朝、飛行機の格納庫の前で、マスコミや見物にきた人々の前で受け答えをしたリンドバーグは、やがて格納庫のウラ側にある扉へすっこむ。一人扉から出てきたリンドバーグは、雨曇りの寒寒とした空を前に逡巡する。寝不足、ぬかるんだ滑走路、コンディションは最悪だからだ。半開きの扉の向こうには、旅立ちを心待ちにしている群衆がちらっと見える(記憶違いで、実際は見えてなかったかも知れない。けど、場面のつながり上、彼の立っている場所の建物の向こうの存在は実感できる)。行くもやめるもすべては「俺次第なんだ」という「最初」を目の前にした人間の心情が、一枚の絵で伝わってくる。冒険野郎の旅立ちの心象風景としては言うことないでしょう。私が過剰に入れこみすぎなのかも知れないが。話がそれるが、冒険野郎が目的を達成したあとの心象を描いて素晴らしいのが『太平洋ひとりぼっち』。本作のラストのナレーションもゾクっとしたけど。
飛行横断中のシーンも好きなのだけど(回想が少し長い気がするが)、それより、離陸までの刻一刻が好き。空の色が少しずつ白んでいくのがほんとうに美しい。手押しする飛行機の後ろをついていく見物客の、隣の人と二言三言をかわしたりする所作や、ばらつき加減が本物ぽくて凄い。飛び立つ瞬間には、奥のほうで放り投げられる帽子が2、3ちらっと見える。この一連のシーンって一気に撮ってしまったのだろうか? 別の日に撮ったら空はああはうまくつながらないと思うのだが…。
アメリカより日本でヒットしたらしいけど、それってこの邦題によるところ大だと思う。もう自由律詩の作品といっても過言じゃないでしょう。巴里っていう字面とひびきね。格納庫の前にいた人以上にロマンの種を蒔かれたと思う。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (2 人) | [*] [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。