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[コメント] 悪の教典(2012/日)

まず知っておいて欲しいのは、この作品がジャンルとしては生徒と担任教師の関係を描くいわゆる「学園もの」であり、ハスミンという主人公先生のキャラの最大の特徴は、無類のJK好きということなのであります。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







極端にいえば、金八先生だと思って見せておいて、最後金八先生があんなことをやっちゃうという、そういう作者の悪意こそが肝なのだ。それにはハスミンの人物設定と、彼が担任のクラスの生徒たちの描き分けが、映画ではどれだけできるかが鍵だと思っていたけど、まあ予想通りだった。

いっそ人物背景など何もわからない怪物として描いたほうがよかった、という意見には納得するけど、そのサイコパス氏に意図や動機というその人の行動規範や美意識がないわけではなく、それにのっとった行為が描けていないとやっぱりできあがったものは面白くないのだと思う。『羊たちの沈黙』に登場したレクター博士の例で言えば、後に続編で明らかになる少年時代の妹の話なんかは『羊…』ではまったく触れていないけど(なにしろこれって原作者も考えてなかった後付けでしょ?)、レクターが何が好きで何が嫌いか、博士の美意識はよくわかるようにできている。

この映画のハスミンでちゃんと描かなければいけなかったのは、原作にあった少年時代の両親殺しやアメリカでの金融エリートとしての挫折が、なぜ日本に帰ってきてからの高校教師なのかじゃないだろうか? これには理由があって、ハスミンは日本の女子高生が大好物になってしまったのだ。これ大事なところじゃないだろうか? 自分のお気に入りの美少女がうまく同じクラスにまとまるように工作したうえで、そこに他の教師が誰も受け持ちたがらない不良、モンスターペアレンツの児童などの問題児をバーター(束)にして、そのクラスの担任を自ら買って出る様子が原作には丁寧に描かれている。そのクラスの女子たちはハスミン自ら「美少女コレクション」と名付けて悦にいってるのである。

つまり、アメリカで金融エリートへの道を閉ざされたハスミンは、その挫折感を乗り越える以上に日本の女子高生を気に入ってしまい、それで教師になって思う存分女生徒相手に性欲を満たし、それがバレそうになったら、仕方なくその女生徒含む関係者を処分するというケタ外れのエロ教師だったのである。原作と映画は別物という見地にたてば、そんな原作のエピソードなんて関係ないし、という意見はあると思うが、それをここに書いたのはそれがハスミンの行動原理だからで、レクターが美しくないものを憎悪するという、そういう人物の背景に関わってくるのだ。原作と同じでなくても構わないが、何がその人物をそう行動させるのか、それが巧妙に描けていることがやっぱりフィクションを面白くすることになるのだと思う。せっかく公式サイトなどでは「美少女コレクション」「ハスミン親衛隊」という用語を紹介しているのに本編では割愛してしまった「JK好き」という設定を踏まえると、がぜん終盤の大量殺人の見え方が変わってこないだろうか?

愛人にしてた生徒に秘密をかぎつかれ計画的に殺したまではよかったのだが、その状況をたまたま知ってしまいそうになった女生徒も仕方なく絞め殺してしまってから、死体を隠すという目的のために一気に「美少女コレクション」含むクラス全員皆殺しにシフトする、という超身勝手、超立ち直り早っ!感のハンパなさ、躊躇のなさにこそこの人の「性格異常」があるのである。サイコパスだからといって、「ああサイコパスだから何でもやっちゃうか」じゃ本当はいけないのだと思う。まだこれから手をつけようと思ってた他の美少女コレクションの生徒も、「しょうがないあきらめよう、また来年作ればいいさ」というのがあの血祭りなのだ。それこそ優子ちゃん、ゆきりん、こじはる、ぱるるにまゆゆ…みたいに、いろんなタイプの美少女が揃った学校一のアイドルグループ、それがハスミンのクラスなのである。自ら選び抜きそのアイドルたちからも愛されているのに、あんなふうに次々に殺していくのである。バレなきゃ殺人なんて別にする気もなかった、のがあの殺戮だったのだ。

さらに追求するならば、「ああ、本当は殺したくなかったなぁ、でもしょうがないよな」という自分への納得付けの奥底にこそ、自分以外のどの人間の上にも自分は立つのだから、自分はまったく完璧にクラスの生徒を皆殺しにしなければならないという、生まれながらのエリートならではの全能感という欲情にうち震えるているのだ。それが血祭りの真意であり、この男の本質的なリビドー(衝動)なのだろう。ヒッチコックの『サイコ』はあんな昔に、ちゃんと性倒錯を描くというタブーをやってのけたのに、そう考えると本作は高校生を殺すというめったにできない素材をあつかいながら、「見てはいけないもの」など何も見せてくれないのは何なのだろうと思ってしまう。

(評価:★3)

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