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[コメント] 007 スペクター(2015/米=英)

ストーリーもアクションも単調。いわゆる「007」としては近年では最もワクワクできなかった。でもこれはこれで好き。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一言でいうとサム・メンデスってヘタクソって感じ。ふつうの会話などのシーンでも妙に間が悪かったり、画面の捉え方に焦点(ピントという意味ではなく)があってなくて、何を映してるの ?っていう感じで、演奏で言えばもうグダグダ。この監督ってこんなヘタだっけ?っていう感じだった。しかも見せ方に新しいアイデアがなく、こういうシーンはこう撮る、っていう教科書のような撮り方ばかりで、それがとてもヘタ。だからいわゆるアクションシーンはほぼ全滅で、仕掛けの大きさでなんとか体面を保っている感じだ。冒頭の狙撃シーンで照準を合わせながら失敗するところのもたつきは、手に汗握るって感じにならず、何やってんだボンド、って感じになっちゃってるし、クレーターの中のアジトの爆破シーンなんて、せっかくギネス級の火薬を爆発させておきながら、あまりに説明的(安心してください、本物の爆発ですよ、的)な撮り方をしているから、そこだけドラマではなくメイキングを見ているようで、関係者一同はがっかりしたんではないだろうか。列車内のアクションで、気絶してたマドレーヌがボンドを救いにくるシーンも、なんでかな、っていうくらい凡庸で、だから敵を倒して高揚したマドレーヌが「この後どうするの?」っていうせっかくのシチュエーションが悲しいくらい情動がない。そのあとコンパートメントになだれこみ、自らボンドを脱がす彼女が一瞬夕方の斜光の中で、エロチックというより猥褻な歓喜の笑顔を浮かべる最高の表情をしているのに、編集・構図がそれを最大に引き出せていない残念さ(もうほんとに残念!)。頭で知っている映像を構築するだけでなく、もっと目の前でそこに映ろうとしている対象をしっかり観察しろよ、写真なんだからさ、っていう感じだ。そのあとの悪い意味でCM的な列車の空撮なんて、007的懐古趣味が何か悪趣味に感じた。

とさんざん文句を垂れてしまったが、クレイグボンドの人間ドラマとしての志向は好きで、『スカイフォール』の、Mを母に持つボンドとハビエル・バルデム演じる元英国諜報部員との関係に対をなす、今回のボンドとブロフェルドとの兄弟関係のドラマには引き込まれた。何よりレア・セイドゥーが超カワイくて、彼女が出てくるシーンはほんとに良かった。最後ブロフェルドを追い詰めておきながら、「俺にはもっと大事な仕事がある」っていって彼女のもとにいって彼女を抱きしめるシーンの、遊びのそれでなく純愛を感じる場面も、もはやボンドよ彼女を幸せにしてあげてくれって、激しく同意だった。(レア・セイドゥーって『ミッション・インポッシブル ゴーストプロトコル』の女の殺し屋だった時より今回のほうが全然いいよね!)

Mが男になって、往年の執務室に陣取った前作から、いよいよ王道復古かって思ったら、いきなり00部門の廃止とかって、酒場で飲んだくれたあげく、若い2人の部下しか着いてこないなんていう物哀しいことになってしまったレイフ・ファインズの頭髪はガチなのだろうか? 主要脇役にアカデミー俳優を配しながら役者の加齢がシリーズ制作に追いつかないのでは?、とか、まさかの今回も地元ロンドンロケでのクライマックスに感じる予算の圧縮…など多分に危惧をしつつ「James Bond will return」のクレジットにホッとしつつ、私が死んだあともこのシリーズは続くのだろうか、だとしてもシリーズコンプはできないんだろうなぁ、とか思いつつ、同年代の頭の禿げたおじさんばっかりの観客とともに「あんたたちは楽しめたかい?」と彼らの胸中もはかりつつ、昼間の満員の劇場を後にしたのでした。

(評価:★4)

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