この作品に罪はないんだけど、2020年を経て観たことで虚しさが募ってしまった。タラ監督が、良識人が眉をひそめるようなアンモラルなセリフやグロをまき散らし社会を挑発したけど、実際の世の中はびくともしないほど酷かったから。ニガーのナニを白人にしゃぶらせる場面の創出なんて、白人警官が黒人の首を膝で絞め殺しているところが動画撮影されているクソみたいな現実には焼け石に水なんじゃないのか？

ラストのリンカーンの手紙、マーキスの言う通り彼自身の創作だとして、それをマーキスが書いているところを想像したら悲しくなってくる。だって「友人よ、手をたずさえ、共にたどり着こう」って自分で書いているわけでしょ？　血だらけの白人と黒人が最後に力を合わせ、手鎖に手首をぶらさげた、これまた血まみれのクソ女を縛り首にするようなシーンにそれを重ねることで、監督は皮肉ではなく、むしろ純粋にそういう思いを託しているように思うのだ。黒人と白人がともに協力しあって共通の悪を倒すだって？　中学生のファンタジーかよ、タランティーノも終わったな、って言われないよう、精一杯偽悪的にふるまっている結果だもの。きれいごとを言って良心が欠けている人間をいっぱいニュースやネットで知ったけど、そういうやつらに限ってこういうシーンが嫌いなような気がしてしょうがない。なぜならその道徳の欠如こそそいつらが目を逸らしているそいつら自身の本質だから。

「西部の正義で悪いところは、善と思って悪をなすことだ」なんて大昔の話でも何でもない、「西部」を「ネット」に置き換えりゃ、まんま今のわれわれの姿だよ。この映画で吐かれた唾なんてどこにもかかかってないじゃん。あ〜あ、どうかコロナのせいでみんなどうかしてたんだ、ってことであって欲しい。