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[コメント] スリー・ビルボード(2017/米=英)

「希望」を持つ「努力」を。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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一筋縄ではいかない話の展開と登場人物たちの造型、それを体現する役者たちの演技合戦で、ほんとに最後まで作品に釘付けだった。

アメリカ南部の田舎の因循な人々は、今の世の中を支持しているエビデンスからはじかれているのだろう。だから今の世の中は正義がない、荒んでいる、と思っているが、自分たちが変わろうとはしない、というかできない。そういう停滞の中をずっと生きているし、まあこれからも生きていく。彼らだけでなく多くの世界で、多くの世界の人がそんなことを少なからず感じているのではないか? なにしろ世界の人の半分36億人の総資産と、世界8位までの金持ちの総資産が同額ということがまかりとおっている明らかに歪んだ世界だから。

いろいろな楽しみ方ができる映画だけど、テーマは、世の中にドン詰まって不貞腐った人々が何を希望に今日や明日を生きるのか、何かそんな方法があるのか、そんなところにあるように感じた。そしてやはり解決策は「自分が変わっていくこと」にあったのだ、と。

主要な登場人物はささいなことをきっかけに自分が変わっていくきっかけや示唆を受ける。それも意外な人物から、というところがこの作品の作劇の妙だ。

ディクソンはウィロビー署長の手紙に心を動かされたが、それは歪んだ精神を増長することしかできなかったが、自分が大けがをさせたレッドからオレンジジュースをもらったことによってはじめて変わることができた。ミルドレッドの場合、署長の死は彼女にも多少影響を受けたし、小男のジェームスからの助け、レッドや息子の純真さに支えられつつ、変われるようで変われない危ういバランスを保ちかろうじて生きていく。やはり彼女も、最後はディクソンに大けがを負わせたことが自分だと承知のうえで、娘を殺した犯人の見当もつかず心が折れかけた自分に寄り添ってくれたディクソンの本心を聞いて初めて本当に変っていけるかも、と予見させる。最後娘の事件と無関係な悪人を殺しに行こうとする車中で、やる気を失っていくという描き方がいい。

正解が「自分が変わっていくこと」だとしても、そのきっかけは本当に自分の想定外の時に想定外の方向から来るものである。いつ来るかわからない、ある人からの一言は神の奇跡のようなものなのだ。いつかはやってくるそれまでの間、どう希望を持ち続けるのか? それはいつか降臨する神を待つに等しい信仰と同等の「努力」を要するのではないか、希望を持ち続ける不断の努力が必要なのではないか、ということを感じた。ディクソンの母親は「望む」より「努力」をしなさい、と息子に教えてきたが、今の世の中は「望み」を持つために「努力」が必要なのだ、と言ってるような気がした。

そう考えると、自分の行動が誰かにとっての神の奇跡となることもあるのかも知れない、とかも思う。そんなことを考えて生きていくことは無理だけど、少なくとも誰かの希望を潰すような振る舞いをしてはいけないなあ、と殊勝な気持ちになったのだった。

(評価:★4)

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