コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 燃えつきた地図(1968/日)

勝新も市原悦子も渥美清も(ついでに中村玉緒も)いい味を出しているし、荒漠とした東京の風景の切り取り方、美術の緻密さは、原作の読者もまず文句を言わないだろう出来と思う。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







…とくにペチャンコのネコの死骸は素晴らしい。公衆電話の野グソなんかはリアルすぎて、何だかよくわからない人も多かったような…。川原の出入りのシーンなんかも良く出来ていたなあ。とにかく力が入った作品であることは感じる。

但し安部作品得意の、アイデンティティの不確実さをテーマにしたものとしては、なんだか中途半端に「これアバンギャルドですから」風にお茶を濁してしまっているようで惜しい(まあ原作自体もあまりテーマが明確なほうではないようにも思うけど)。これ、失踪者とは「捜索される」ゆえに「失踪者」であって、捜索されようともしない者は、失踪者としても規定されない孤立した存在であり、従って、本当に捜す気があるのかないのかわからない市原悦子に、形式的に捜索されている失踪者も、それを捜索する「誰からも(妻からも、会社からも)捜されようとしていない」探偵も、その意味において同質であり、そこで追うもの・追われるものの両者が転換するということなんだと思うのだが、こうやってソラリゼーションで処理されてしまうと、案外ふつうに転換されたっていうイメージになっちゃって、前述のようなこの作品特有の文学的な意味は飛んでしまうような感じだ。この作品、映画としてはわかりにくい最後のエピソードを思い切ってやめちゃって、不穏な空気の漂うサスペンスというふうにしたほうが良かったかも。…それじゃ安部公房じゃないか。

(評価:★3)

投票

このコメントを気に入った人達 (1 人)ゑぎ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。