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[コメント] 千と千尋の神隠し(2001/日)

監督の新作が出るたびに思うことだけど、見ている間は動く絵でこれだけのことをやってくれたという満腹感が先にたつ。しかし見終わった後の満足感に欠ける。
おーい粗茶

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







湯船から溢れるお湯や、障子越しに明かりが漏れている夜の庭先、草木をなぎ倒しながら走る自動車など、実写で見ても何とも感じないだろう風景がとても魅力的だ。この作品に限らず、自分にとって宮崎監督の劇場作品は、イマジネーションを素晴らしく感じるというより、圧倒的な動く絵自体に満足してしまうものと総括できてしまう。式神が大挙して飛来してくるようなシーンがそうだ。イメージが凄いというのではなく、あれを絵で見せてくれたことが凄いという感じ。話がつまらなくて散漫なのもこうした絵を何度も繰り返し味わうのには都合がいいと思うし、それは監督の狙いどおりではないかと思う。

この監督にとって作品とは何かを作為的(悪い意味ではなく)に物語ることではなく、「世界」を設計し提供するようなものなのだろう。ストーリーもテーマも「世界」に入っていくための最低限のものなのだ(ただ発信をする者の責任というのを凄く重視しているから「間違ったことはいうまい」という信条があり、それが説教くさく感じるのであろう)。宮崎広場が居心地のよい場所なら私もリピーターになるところなのだろうが、微妙に「好きな場所」のツボは違うし(他人なんだから当たり前)、冒険者の自由を暖かく見守りながらも「集団の中から本当にはみ出すことは許さない」といっているようなこの監督が好んで描くコミュニティに、どうも圧迫感を感じてなじめない(千尋が最後に油屋の皆から「承認」されるくだりが苦手。他の作品でも必ずといっていいくらい出てくる「気のいい人たちの集団」の哄笑がちょっと苦手なのです)。それと、アニメに対しては、いい情景を見たいという欲求よりも、面白おかしく練りに練られた物語を見たいという気持ちの方が強いからだろう。居心地の悪さを少し感じるところと、話の面白さのなさが自分には向いていないということか。

その昔宮崎監督が、ただ「客が感動するから」という理由で登場人物を死なせようとした手塚治虫のことを非難した、というエピソードを知っているから先入観でそう思うのかも知れないが、この監督が「「物語」を作らない姿勢」でありながら「楽しませる」ということが、動きや世界観で見せる作風につながっているのではないのかなあ、などと思ったりする。

新作ができたら、また動く絵に驚くために見る。でもいつまでもその世界に耽溺したいとは思わない。きっと次の作品を見た後もそう思うと思う。

(評価:★3)

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