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[コメント] この自由な世界で(2007/英=独=伊=スペイン=ポーランド)

「自由」とは自分の好きなようにしていいという意味ではない。自由であるが故のリスクも責任もつきまとうのである。[シネ・アミューズ・ウェスト]
Yasu

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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この話で興味深いのは、外国人労働者から“搾取”する側のアンジーらも、実はさらに上から搾取されているということ、そして彼女が違法行為に手を染めていくきっかけが、困窮するイラン人家族を救おうという親切心だったということである。たとえ違法であっても、困っている者同士助け合うという善意ゆえの行為を誰も責めることはできない。上手い作劇である。

もちろん、アンジーには「マフィアのボスも警告だけであとはお咎めなしだから大丈夫」という思い込みもあっただろう。とは言え、お咎めがなかったのはマフィアのボスだからであって、女手だけで切り盛りしている零細業者など、関係機関がその気になれば簡単に潰せないわけがない。だが、周りが見えずいっぱいいっぱいのアンジーは、おそらくそのリスクに気付いてはいまい。

この話は、パートナーのローズとも決別してじわじわと危険な方向へ向かっていくアンジーの“その後”を描いてはいない。しかし、その結末は容易に想像ができる。ここで思い出すべきは、一人息子のジェイミーが誘拐されかかったとき、誘拐犯を警官と思い込んだ彼が、不用意にも祖父の名前などの情報を洗いざらい話してしまっているという事実だ。この先、再び賃金未払いなどのトラブルが起これば、次はジェイミーのみならず、アンジーの両親も無事では済まないであろう。

スネに傷持つ身となったアンジー。ウクライナから集めた40数人の労働者に対して責任を持てるのか。そのリスクを負えるのだろうか。残念ながらそうは思えない。そして、おそらくはケン・ローチ監督も同じように考えているのではないかと信じる。

原題『It's a Free World...』の最後についている「...」。この“自由な世界”が、か弱き人々に対していかに不自由であるかという思いが、この「...」に込められているような気がするのだ。

(評価:★4)

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