[コメント] 蝶の舌(1999/スペイン)
映画を見終った人むけのレビューです。
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まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
ドン・ヘンリーのこの曲のことを、観終わった後に思い出した。
これは、そのタイトルの通り「成長とともに純真さを失っていく少年期の想い出」を歌った曲であるが、考えると、この映画に重なる部分が多くあるような気がしてならない。
曲は「何も心配事などなく、両親のそばでのびやかに過ごしていたあの頃/でもおとぎ話のような生活は終わり、父は姿を消した」と歌われる。モンチョ少年も同じく、子どもらしく生きていた日々はいつしか終わりを告げ、大人たちの世界に次第に入り込んでいく。
その結果が、ラストのモンチョ少年のあの行動に結びつくわけだ。彼は本心であの言葉を叫んだのか、それとも父親のように心にもないことを言ったのか。恐らくはどちらでもあり、またどちらでもないのではないだろうか。
反共の立場を明確にしないと自分の身が危ないと見て取るや、急にこれまでの主義主張を覆し、かつての仲間を(良心の呵責を感じつつではあろうが)弾劾する父親、グレゴリオ先生に服を仕立てた事実を「なかったこと」にする母親。そんな大人たちへの不信感が、さらに自分もいつかはこんな大人になるのだという悔しさが、そして何より、大人の世界をモンチョに教えたのが、他ならぬグレゴリオ先生であるということが、あの言葉を叫ばせたように思う。
「僕にこんなことを言わせるように仕向けたのは、先生たち大人なんだ。先生だって、大人だから責任があるんだ。汚いんだ」。先生の乗ったトラックに向かって石を投げるモンチョは、そんなことを考えていたのではあるまいか。
この映画を観て我々が涙するのは、そんなモンチョ少年の姿を見て、自分自身の「失われてしまった少年期の純真さ」を懐かしく思い、それがもう取り戻せないということを再確認するからなのだろう。
サナギが蝶に変わるように、少年は大人の世界へと脱皮した。そして、脱ぎ捨てた殻はもう二度と着ることはできない。
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