コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 太陽を盗んだ男(1979/日)

都市に生きる孤独なエディプス。
crossage

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







修学旅行の帰りのバスにバスジャックが乗り込んできた事件が一つの引き金となって、ジュリーこと沢田研二扮する孤独な中学教師がおのれの自覚せざる暴力衝動に目覚めてプルトニウムを盗んで原爆を作り、菅原文太演じる不死身の刑事と荒唐無稽なバトルを繰り広げるという一種のトンデモ映画。

パラノイアックな情熱をもって原爆製作に当たっていたジュリーが、原爆を完成させたとたんに、その後何をしたらいいかわからず途方に暮れてしまったり、文太演じる刑事のカリスマ性に無意識に魅かれるまま何度も彼宛てに脅迫電話をしてしまったりする描写はいまみても奇妙にリアルな感慨を呼び起こす。

「原爆で政府を脅して何を要求するか」というジュリーの問いがラジオを通じて一般人に情熱と共感を呼び起こしたりするくだりや、追う刑事と追われる犯人との心理的なやり取りなどには、70年代に興隆したアメリカン・ニュー・シネマの影響を強く感じさせるものがある。と思っていたらどうりで、原作は『タクシー・ドライバー』の脚本も手がけたレナード・シュレイダー。作品中にも『タクシー・ドライバー』を彷彿とさせるシーンがちらほらと。

ジュリーの文太への憧憬は一種の自己愛的な鏡像関係を想像させ、このあたりは『太陽がいっぱい』あたりが参照項になっているように思えるのだが、ジュリーを息子として、文太を想像上の父に見立ててみれば、案外エディプス・コンプレックスの図式で容易に読み解けてしまうのかも知れない(実際、ビル屋上の最後の対決場面における文太の飛び降り無理心中は、「去勢」に近い儀式的側面もあるだろう)。

皇居にバスを突入させるシーンや、渋谷東急屋上から撒き散らされたビラ札が群衆にパニックを呼び起こすシーンなどにおける電撃的なロケーション感覚は、当時ならではのものではあろうが、一種の都市ドキュメンタリー的な側面も含めとにかく見る者に興奮を呼び起こさせる。圧巻としか言いようがないラストシーンと併せて、その映像の驚異だけでも味わっておいて損はない。

[2001/11/12] なにげにレヴューが「ネタバレ」っぽいので申告してみました。文章の内容は変更していません。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (20 人)ぽんしゅう[*] けにろん[*] ジェリー[*] モノリス砥石[*] 空イグアナ[*] 新町 華終[*] tredair peaceful*evening[*] グラント・リー・バッファロー[*] ごう uyo[*] 緑雨[*] 秦野さくら[*] ジョー・チップ[*] Linus[*] おーい粗茶[*] あさのしんじ[*] ペペロンチーノ[*] まなと[*] たかやまひろふみ[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。