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[コメント] 魂のジュリエッタ(1965/仏=伊)

艶やかに美しく、滑稽な喧騒に満ちた色トリドリの奇形的な世界が、そこにしっかりと屹立する白黒のコントラスト劇によって、祝祭的空間として際立たせられる。
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**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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冒頭、鏡に向かって身支度を整えてばかりで、なかなかその顔をこちらに向けようとしないジュリエッタ・マシーナの後姿。その周りをくるくると動き回りパーティーの準備に余念がない召使たち。彼女らを追ってカメラが目まぐるしく横移動し、鏡を多用した万華鏡的空間に始まりの予感が満ちる。やがてひとときの静寂と暗闇が訪れ、薄明かりのもと、満を持してとばかりにジュリエッタのクローズアップした顔が浮かび上がってゆく。その翳りのある笑顔。はぁとため息が漏れる。映画を見ていると実感する得難い瞬間。

鮮やかなテクニカラーほとばしる空間に、アクセントを添える白と黒。艶やかな色彩美をまとったフェリーニ的奇形オブジェクト&人物たちが画面をイメージづけている一方で、しっかりと物語の主軸を構成しているのは、まちがいなくこの白黒のコントラスト劇だと思う。

○白……浜辺でジュリエッタが着ていたコスチューム(&丸い日よけ帽子)。幼女時代の宗教劇で着ていたコスチューム。天使の羽根。…etc.

●黒……隣家のスージーが着ていたコスチューム。木の上の隠れ家へ移動するための球形のリフト。それに乗るときにジュリエッタが被っていた日よけ帽子。ジュリエッタの祖父のコスチューム。彼が駆け落ちに使用した飛行機。不吉な黒装束の集団。…etc.

ジュリエッタを若い美しい男との愛へいざなおうとしたスージー、彼女を象徴する色が「黒」であるように、白は純潔の色、黒は背徳の色。……黒の世界に幻惑され足を踏み入れそうになりながら、最終的には別れを告げ、一人で世界へ向かってゆくジュリエッタは、もはや単純な「白」でもない。世界に満ちる絢爛たる色彩へと、自らを開いてゆくのだ。 一見物語から逸脱しているかにみえる色トリドリの奇形的世界も、取りとめのない全体をひきしめる白黒のコントラスト劇を主軸に据えることによって、みごとな祝祭的空間として機能する。初のカラーに挑んだフェリーニの面目躍如といったところか。

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[021014] 池袋新文芸坐(『カビリアの夜』と2本立て)

(評価:★5)

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