[コメント] 冬冬の夏休み(1984/台湾)
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淡々とした夏休みのようでありながらひと夏に子供がこれだけの経験をすれば十分な教養映画になる。胆管閉塞をわずらい、麻酔薬で昏睡する母、木から落下し流産する知恵遅れの女、頭部に外傷を負ったドライバー、痔に苦しむ叔父、線路で転倒し間一髪で救い出される妹、多くの登場人物が壊れもののように描かれることで、ささやかな生命へのいとおしさがにじみ出る。
夏の日の映画でありながら突如奏でられる「赤とんぼ」。この選曲には日本の映画作家には不可能な大胆さがある。作詞した三木露風が故郷山形を思っての郷愁歌であるので、選曲が変というわけではないのだが意表を突かれた。冬冬少年の夏の終わりを予告するものという理屈っぽい解釈も出来るが、この音楽に本来ついている詞の季節を台湾人が知らなければ、そういう意味づけは難しい。
ぜんまいの柱時計、かえるや蝉の鳴き声、けだるげに響く電車の音などの音響効果も的確で、子供たちを取り巻く空間をたっぷりと広く感じさせてくれた。特に冬冬の祖父が若い娘をはらませた息子を殴ろうと棒を持って家の外に飛び出したシーン。ある意味最も映画の中でテンションの上がるシーンの一つであるが、この親子の後ろを大きな音を立てて電車が走る。うまいものである。(このシーンでは、親とこの間に近景に一本の木が挟まるユーモアにも驚くのだが)
不満を言うのをひとつだけ許していただけるのならば、冬冬が両親に書く手紙のエピソードが気に入らない。省略を画面にもたらす手法としては工夫不足。わざわざ冒頭母親に、「手紙を書け」と言わせているところで、語るに落ちた感がある。
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