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[コメント] 宇宙戦争(2005/米)

本卦帰りか宗旨変えか。→
ジェリー

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







強いストレス下にある人間を描くというモチーフは、スピルバーグの初期作品を思わせる。スピルバーグの『激突』や『ジョーズ』といった作品を公開時から楽しんできた私にとっては、本作品は本卦返りしたかのような趣があって、持ち前の小気味よいテンポ感には正直今回も舌を巻いた。このスピード感こそ彼の「間」なのだ。

しかし、ささくれだった現実から束の間逃避して映画という気晴らしの世界に身をおこうとする者にとって、この映画の特撮シーンはどこか現実との地続き感があって、正直正視に堪えられず、席を立とうと思ったこともあった。

地割れのシーンは、新潟県中越地震を思わせる。高架鉄道の破壊シーンは阪神淡路大震災を想起させる。崩落する建物の崩壊から逃げる市民のシーンは、世界貿易センタービルの倒壊から逃げ出そうとするアメリカ人のようだ。火に包まれてコントロールを失い疾走する汽車の光景は、ついこの間、日本が体験した痛ましい事件にもどこか似る。

正視に堪えないシーンはこれだけではなかった。生活に必要なものがない恐怖・家に安住できない恐怖・家族と引き裂かれる恐怖・機械に追い立てられる恐怖・財産を赤の他人から奪われる恐怖・必要な情報が入手できない恐怖・細菌にとり殺される恐怖・社会が秩序を失っていく恐怖・人とコミュニケーションがとれない恐怖。2000年を過ぎて以降、急速に世界中を覆いはじめた恐怖が映画の全編を覆う。それらが圧倒的な画力で描かれている。

こうした映画の力は、むしろ賞賛されるべきである。ハリウッド映画は、常にテクノロジーの発展によって映画の画力を向上させてきた。その現段階の到達点といっていいかもしれない。でも、ここまで到達したことにそれほど意味はない。到達地点はこれからも更新されるだろうからだ。

大事なことは、この100年間の間に、ハリウッド映画が、アメリカンドリームを語らずにアメリカの現実を語る時期を何回か迎えているということと、今、その時期が始まっているということのほうだ。ハリウッド映画としてはある種の豊穣な力を取り込みえたかつての同種の時期は、アメリカにとって必ずしも幸福な時期とは言えなかった。

決して後味をよくしようという意図などないこの映画は、狙い通りの後味悪さでラストシーンを描き終わり我々を現実の世界に引き戻した。これから、我々はどこに向かおうとすればよいのか、という嘆息が映画から聞こえてくる。

(評価:★3)

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