[コメント] アフリカの女王(1951/英=米)
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この映画が制作された時代、もうだいぶテレビに侵食されていたかもしれないが、夫婦がそろって映画を見に行くことが娯楽の王道だったころのマーケッティング戦術としては上々だ。アクション映画として観ると食い足りないが、そういうねらいではないからしようがない。ラストのご都合主義も、映画館を観客が重い足取りで引き上げることのないようなジョン・ヒューストンの「配慮」に映る。ラストでは、男女とも死亡、男だけ死亡、女だけ死亡、両方脱出、両方救出の多彩なスペクトラムが描けたはず。その中での選択としては最も爽やかなカタルシスを得られる展開を選択していると思われる。
なんといっても、この映画は川を下る映画なのだ。蒸気エンジンがなくとも人力でも川は下れる。実にナチュラルなことを基調にした映画なのである。そう難しい話にしてしまったら、基本の設定が全く生きてこない。人生の寓話にもならない。もし難しい設定の話にするのであれば、川を遡行する映画にしなければならない。たとえば『地獄の黙示録』、たとえば『2001年宇宙の旅』のように。
アクション映画としての展開が食い足りないとつい先ほど書いてしまったが、実はそうでもない。火に始まり、水が中間を支配し、火に終わる展開はダイナミックだし、アクションつなぎはかなり丁寧だ。狭い船内の中にキャメラを置いて狭い船内を撮る場合は当然アップが多くなり、画面全体がせせこましくなるところだが、そういう場面では皮膚の汗やへばりついたシャツでアフリカの臨場感を醸し、時折船外の、私の造語だが神様視点で撮られたショットにおいては川の流量や圧倒的な草の質感量感でアフリカを表現している工夫がある。アフリカが描けていれば私にとってはアクション映画である。テクニカラーはこってりと油乗りがよいのが特徴だが、逆に弱点と思われる空気感表現も相応に出ていた。『赤い靴』もテクニカラーではなかったかと思うが、だとすればジャック・カーディフは、テクニカラーの名手だ。
ハンフリー・ボガートとキャサリン・ヘプバーンの演技は両方アカデミー賞をとってもおかしくないくらい素晴らしい。男のたれ目と乱杭歯が女の頬骨に負けていく有様のユーモアの上質さといったらない。
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