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[コメント] 4ヶ月、3週と2日(2007/ルーマニア)

友人の中絶に協力する女性の1日を手持ちキャメラで克明に追ったカンヌ映画祭パルムドール受賞作というだけで想起されるある種のステレオタイプは、ものの見事に破壊される。本作は、サスペンスの深い森に見る者を迷い込ませる超一級の娯楽作品だ。
ジェリー

カッティングはエイゼンシュタインのように、空間表現はキューブリックのように、時間の継起はヴィスコンティのように素晴らしいといえば今の私の感動をほんの少しは実体的に伝えられたかもしれない。シーンの中で生み出されるある懸念がしっかり保持されたまま、次のシーンでよりいっそうの深い懸念に置き換わっていく、このサスペンスのつながりの強度。そこに深々と身をゆだねることが出来る快感。

ひとつひとつのごく簡単な日常行動が長回しのキャメラにより延々と眼前を流れていく。決して誇張ではないのにそこに映し出される状況説明の不徹底、誤解の放置、見返り条件提示の欠如、提案の拒否、傾聴の不足、合意形成の中断などの様々なコミュニケーション不全状況の見せ方がクリアでリアルだ。そこにこの映画の美しさがある。

スターとしての演技ではなく、ごく平凡な市井の人間を至極普通に演じることの出来る優れた俳優たちの演技がまた素晴らしい。膨大な量の台詞が要求される役を、何分も続くワンカットの中で、研ぎ澄まされた演技でこなしきる彼らの腕前の確かさ、またそれを演出する監督の緻密さ。最大の敬意を払わずにはいられない。

バスルームの描写がうまい映画は傑作だという私的鉄則がある。この映画もその鉄則を堅持してくれた。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (6 人)寒山拾得[*] 赤い戦車[*] Orpheus 3819695[*] ぽんしゅう[*] shiono[*]

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