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[コメント] ワルキューレ(2008/米=独)

信管の差し込まれたプラスチック爆弾はいつの時代でも映画の最高の主役なのだから、小味の利いたサスペンスフルな場面がもっとあってよい。綾のない一本調子のストーリーテリングが残念。しかし人物一人一人の描き方はかなりいい線である。たとえばヒトラー。
ジェリー

 冒頭の登場部分で、ヒトラーの普段の姿を描いた部分は秀逸だ。ヒトラーが最前線に視察に行って幹部激励の食事会だけして帰ってこざるをえないという独軍の趨勢を、ヒトラーの前にソーセージとザワークラウトの盛られた平皿を置く数カットのシーンで簡潔に見せてくれている。ヒトラーの猫背にも顔にも浮かび上がってくる濃厚な苦渋の翳が鮮やかだ。超常現象並みに実在者によく似た俳優が演技をしていた一時期のソビエト戦争映画と違い、俳優の持ち味も考えた模倣と創造の中庸の演出が、監督のバランス感覚と効率性を重視するセンスを表わしてもいる。

 あと腹をくくったはずのクーデター首謀者たちが状況の変化の節々にふと見せる優柔不断の行動が、その優柔不断性すら一貫しないゆえにますます優柔不断性を高めてしまう状況の描き方にはぞくぞくするリアリティがある。その中でただ一人わがトム・クルーズ氏だけがまったくもって軸ぶれのない行動を貫き、この一貫性こそリアリティを蹴散らして進む彼のスター性の輝きなのだと感じ入らざるを得ない。馬鹿にしているのではない。

(評価:★3)

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