[コメント] あなたと私の合い言葉 さようなら、今日は(1959/日)
市川崑が放つスクリューボールコメディの秀作。棒読みに近い小刻みの台詞は日本流のマシンガントークに他ならない。そして我々は若尾文子のコメディエンヌぶりに瞠目するのだが、そのときに彼女の鼻梁に乗る眼鏡に注目しなければならない。
スクリューボールコメディで登場するどうにもおかしな男女。ハワード・ホークスの傑作群と比較すると、『モンキービジネス』におけるジンジャー・ロジャース、『赤ちゃん教育』におけるキャサリン・ヘップバーンのごとき地位を若尾文子は占める。そしてジンジャー・ロジャースやキャサリン・ヘップバーンを風変わりな女にした仕掛けとして若返り薬や豹が登場したように、この映画においては眼鏡がその機能を果たす。この眼鏡を境界線にして、若尾文子は生真面目な企業人と生身の娘の間を往還する。この往還の様子に類まれな上品知的なコケットリーが生まれてくる。こうした小道具の統辞法の強さにおいてはホークスが上であろうが、仕掛けの繊細さは市川崑が上回る。
(評価:
)投票
このコメントを気に入った人達 (1 人) | [*] |
コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。