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[コメント] 青春の殺人者(1976/日)

革命前夜の長谷川和彦

デビュー作というのは、良くも悪くも監督の本質的な部分が出てしまうものだけれど、長谷川和彦(以後「兄貴」と人称が替わるが、気にしないでくれ)の場合も例外ではない、と僕は思う。兄貴にとってのそれは、いうまでもなく青春だ。

自我もあいまいで、鬱憤と性欲でのたうちまわり、社会に対して何の責任も興味もない。ただ、何かに急きたてられるように居ても立ってもいられず、牙をむき出し突進していく。一貫性などない、あるのは衝動だけ。そんな、太陽のごとくギラギラ輝いていた時代を青春と呼ぶとするなら、『青春の殺人者』は「わかりやす過ぎる」ほどの青春映画―親との軋轢、親殺し、後悔、権力への懐疑、逃亡―だ。時代背景が特異であるがゆえにちょっと古びてしまった感もあるが、青春というものがノスタルジーという錆(さび)に否応なく侵食されていく運命にあることを考えれば、その「古さ」もまたこの映画の青春性を強調するだけだろう。そして、兄貴の溢れんばかりの映画への情熱や、兄貴自身の衝動を兄貴がうまく整理しきれていない、という点でも青春映画である。

しかし、まだこの段階では原作者である中上健次の力によるところが大きいとも言え、その異様なパワーに兄貴が押され「文芸映画」(純文学)に限りなく近づいている。中上健次おそるべし。

(評価:★4)

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