コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] ファイト・クラブ(1999/米)

アブナい思想家デヴィット・フィンチャーは『太陽を盗んだ男』を観たか!?(アブナいreviewへようこそ!→)

闘争心よりも逃走心(浅田彰)が頭をもたげる80’sは「闘うな!逃げろ!」。しかし、バブリーな80年代はとうに過ぎ去り、90年代の日本は「失われた10年」(村上龍)と呼ばれ、00年代は「もはや消費すら快楽じゃない」(田口ランディ)。人より早く流行の音楽を聴き映画を観てブランド物を買い漁る。街には、「人より違ってたい」という「個性」への欲望が渦巻くが、所詮、戦後民主主義教育によって作られたアメリカ=「個性」への鬱屈したコンプレックスでしかなく、流行を作り出す広告屋とMTVの高笑いだけが聞えてくる。そんな80年代アメリカを皮肉った米文学の金字塔エリスの『アメリカンサイコ』はやっと映画化され、80年代の高度消費社会ニッポンのバイブル『なんとなく、クリスタル』の作者田中康夫が長野県知事・・・って、おいおい、そりゃデキ過ぎだぜ。ブッシュJrが政権を取ったアメリカでは80’sリヴァイバルの嵐が吹き荒れ、防衛費と財政赤字だけが膨らんでいく。ヒットチャートはダフトパンクの“ワン・モア・タイム”(「80’sよ、もう一度」!?)、そしてトミー・フェブラリ。80’sニュー・ロマの焼き直しじゃん!とツッコミを入れようと思ってたら、80年代アメリカのイコンであるマイケル・ジャクソンは久方ぶりの新譜を出すし、マドンナと並ぶ80’sのヒーロープリンスが復活のニュース!?・・・結局「バブルよ、再び!」ですか?「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(エズラ・ヴォーゲル)ですか??「資本主義バンザイ!」ですか???

・・・・・・以上のように(?)、70’sの「アメリカン・ニューシネマ」大好きのぼくのような心情左翼(=とりあえずぶっ壊せ!)の人間にとっては、こんなにもぶっ壊しがいのある時代はないわけである。もしかすると、タリバンに対して親近感を抱いてしまうようなアブナいプチ思想家が、世界中の、水面下でうごめきつづけているかもしれないよ?そして、そうだとすれば、その筆頭にあげられるのは、このMTV界(マドンナなど)とCM界(コカコーラなど)の申し子デヴィット・フィンチャーかもしれない。

本作『ファイトクラブ』は、「脳内(ひらきなおり)映画」(ハイタカさん)であり、「マッチョに憧れる文科系のお話」(たかやまひろふみさん)であり、「弱者であるという怨恨(ルサンチマン)を晴したい欲望」(muffler&silencer[消音装置]さん)を核弾頭につめ込んでぶっ放した映画である。しかし、そもそも暇な日曜に暗い映画館で映画ごときを観るような奴らなんぞは、所詮ロクな人間ではない、とぼくは思っている。ゆえに、いろんな意味で正しくない、そして頭の悪い危険な映画である『ファイトクラブ』を断固支持したい。79年生まれの自分にとって、『時計じかけのオレンジ』も『砂丘』も『ワイルドバンチ』も『イージーライダー』も『タクシードライバー』も『if もしも…』も、すべてが通過した‘後’だった。強いてあげれば、長谷川和彦の『太陽を盗んだ男』がギリギリで79年の作品だったぐらいだ。しかし、やっぱりそれも後追いだった。が、しかし。『ファイトクラブ』は違う。初めて同時代的に体験できた「危険な映画」なのだ。その同時代性をぼくは何があろうと末代まで死守する覚悟だ。

(評価:★5)

投票

このコメントを気に入った人達 (12 人)chokobo[*] Orpheus crossage[*] SpiraL[*] OK[*] まちゃ[*] peaceful*evening[*] SUM[*] ミュージカラー★梨音令嬢[*] [*] muffler&silencer[消音装置][*] Kavalier[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。