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[コメント] 楽園をください(1999/米)

それでもなお、アン・リーは、生きることを喜ぶ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







●歴史スペクタルものは「人間」を描かない。いや、描けない。戦争という実体があるようで全くないような出来事の中へと多くの人間が取り込まれ、人間は数字としてだけカウントされるスリリングなイベントへとその様相を変えてしまう。そこに「人間」は必要ない。(映画がそのことに対して初めて抵抗を示しえたのが、ベトナム戦争だったと思う。最近では『プライベート・ライアン』だろう)。

楽園をください』のアン・リーは、ひたすら「人間」へと迫ろうとする。そのことによって、南北戦争の中にあるアメリカ合衆国の‘自由'の欺瞞を暴こうとしているようだ。(それは、『プライベート・ライアン』の冒頭において、スティーヴン・スピルバーグがひたすら戦争をイベント化することによって逆説的に戦争のむなしさを描いたのとは、全く逆の方法である)。しかし、このことを単なるヒューマニズムとして片付けてしまうのは、不毛なニヒリズムでしかないだろう。なぜなら、今こそ、徹底化されたヒューマニズムが求められている時はないからだ。おそらくアン・リーが南北戦争を題材に選んだのも、当時のアメリカが内包していた‘自由'への矛盾を、再び現代のアメリカが今度は外部に対してくり返していることへの警鐘のつもりだったのではないだろうか・・・。(たとえば、現在のアメリカは「北軍」であり、イスラム社会は「南軍」である、と言えなくもない)。ラストでジェフリー・ライトは、‘自由'という彼岸へ向けて草原を駆けて行った。その行く末をぼくは信じたい。そして、北軍の巣窟へ突っ込んで死ぬことで自分自身をロマンティックに英雄化しようとしたジョナサン・リース・マイヤーズ(自爆テロ!fuck!)よりも、死なないことで生きようとしたトビー・マグワイアの家族にHopeを!

(評価:★4)

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