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[コメント] 細雪(1983/日)

芦屋の情景がなければこの作品、魅力半減どころか当社比20%
torinoshield

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







監督は原作を読んで映画化したようであるから原作をベースにした批評でもいいだろう。さてポイントを絞るのは難しいので項目別に。(原作のネタバレもありますので本音を言えば小説を是非読んで欲しいところ)

○貞之助の扱いに関して

原作では次女幸子の良き旦那として書かれているがそれは当然の事で幸子のモデルが松子夫人(谷崎夫人)であるのだから貞之助は原作者本人という事になってしまう。或いは世間がそう見てしまう。そんなわけで貞之助の立場は自分の考えもあるが幸子や3姉妹の立場を考え、又本家の辰雄にも配慮するという離れ業を演じているのだがこの映画の中では一族の中でも扱いが小さく義妹に手を出すくらいである。原作どおりの扱いにしてやれば幸子・雪子・妙子・貞之助は話の四本柱であるというのに、という不満がある。そりゃあの三女なら手を出すのも分からんでもないが。

○芦屋の町並みに関して

自分の解釈としては雪子が何度もお見合いをしてダメに終わった遠因は芦屋から出て行きたくない、という彼女の感情にあったと思う。原作では芦屋近辺の情景が細かく描写されており読者は雪子が東京や名古屋や地方の金持ちのところに断固として行かない心情がよく分かる。それだけに映画上の舞台となる当時の芦屋があまりというか殆ど出てこないのはがっかりだ。そのせいでか雪子が何故縁談を断るのかの理由が不明瞭になり貞之助との不倫?関係が下地になっているように持っていっているのかもしれない。が、これでは原作のもっとも重要な「芦屋の情景」と「そこから離れたくない雪子」という土台を完全に覆しているわけで納得のいくものではない。

○妙子が軽い

原作にある芦屋の洪水(阪神大水害)は昭和13年なのだがこの映画は昭和13年京都の花見から始まるわけで妙子と板倉の関係が劇的に変わった水害の場面(恐らく映像上不可能との理由か)がないのが残念。この時より妙子の本格的な蒔岡家からの独立が始まったのだがこのシーンを省いてしまうと本当に単なる気の強いお嬢さんという扱いになってしまっている。

○悦子・雪子・ローゼマリー

先に述べた幸子・雪子・妙子・貞之助が原作の4本柱だとすれば他の人間関係で必須なのは悦子・雪子・ローゼマリーだろう。悦子は幸子の子で映画上でもチョイ役で出てきたが悦子と雪子の関係は親子以上とも言え雪子が芦屋にこだわったのは悦子との関係も多分にある。そして悦子の親友で隣家のドイツ人家族の娘・ローゼマリーも重要だ(この時点でドイツ人家族は欧州での勝利を確信している)。

結局のところこれだけ売りのある小説細雪なのだが映画になるととたんに大物女優の着物コスプレショーと化すのは何とも残念だ。俺は単純に昭和10年代の芦屋をスクリーンで観たいだけなのだが。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)寒山拾得[*] けにろん[*]

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