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[コメント] ブラックホーク・ダウン(2001/米)

外しまくった反戦映画。が、視点を当事者にする事で簡単に「反戦」と言えなくなるのだ
torinoshield

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







よく思う戦争の構図がある。「強者 対 弱者」って奴だ。

当然どちらにも所属していない場合人は大抵弱者を応援する。 ちなみにインドだったかは強い方を応援する風土だって聞いたことがあるがどうでもいいか?

この映画は中立を装っていながらアメリカ人視点に立っている、と非難されやすいが 実際は「中立を装いながらアメリカよりの視点でしか物を見ないアメリカ人」を 表現しているように感じる。だから日本人でなくとも多くの人(当然アメリカ人も)が 「なんだよこの調子こいたアメリカ人はよ」って感じる様に作られているのだ(中途半端なんだけど)。

もしアメリカを正当化させたい映画なら以下に矛盾する部分がある

●冒頭部のソマリアの状況説明が短すぎ。やたら19対1000だけが捉えられているがこの1000の民兵側が 食料を強奪し武器で民間人を威嚇していた結果何十万単位で人が死んでいるのだ。つまりこの民兵は 民兵では無く単に政治団体の衣を着た「強盗略奪団」だったのだ。つまり最後の数字を正確に表すなら

19(アメリカ人)対 1000(強盗略奪団)対 数十万(民間人)

という数字を持ってくるはずだ、アメリカ讃美映画なら。

では何故多くの映画監督がしてきた「反戦映画」風に仕上げられなかったのか?という疑問も 沸いてくる。これはDVDのメーキングビデオに収められていた物なのだが スタッフはこの映画を撮影するにあたり米軍の積極的な支援に驚きそして大変感謝したようだ。 役者の軍施設を使った長期トレーニングや関係者からの事件の詳細な説明。 本物のヘリの借用、部隊の人達がスタントマンをしてくれたこと…等々。 つまりスタッフの人達も少なからず米軍関係者の事件の苦労を知ってしまった。 会って話をしてみればいい人達だな!ってやつだ。

最初アメリカ人の中でもあまり実情が知られていないこの事件を スタッフは単純な「強者 対 弱者」という構図の反戦映画として作ろうとしていた(もちろん強者が負ける) 。ところが予想外に米軍が「ようやく実情を語ってくれる人が現れた!」とこの映画に 積極的に援助してくれたおかげで単純な反戦物を作れなくなってしまった、と想像出来る。 結果として戦争映画の定番である構図を期待した人達から大いに叩かれる事と なってしまう…言ってみれば実情を知ってしまったが為に最初に立てた怒りの矛先の 納め場所に苦慮している映画といえる。

ちなみにこの事件関連での一番の悲劇はその後起こるルワンダ紛争だ。

ソマリアに懲りたアメリカがルワンダ派兵に消極的になり国連がフランス主導で 「実質見て見ぬ振り」に落ち着いたため起こった民間人同士の50万人とも言われる大虐殺。 2003年のイラク戦争時アメリカが「イラク人民の為」と言っていたのを多くの人が 白々しい、と思っただろうがこれはルワンダ問題で失政を犯した国連とフランスを 牽制する意図が多分にあったはずだ。(アフリカの国々がフランス側に付くことを躊躇したのはこういった側面もある)

そしてこの映画。スタッフの不明瞭な主張は別にしてももしこの部隊がありとあらゆる 国の人達が混じった国連軍(当然日本人もいるとして)が主役の映画だったらどんな 感想になったのだろうか?やはり当時のアメリカ人のように 「こんな何の関係もない所に派兵するのが間違い」となったのだろうか? (一応ソマリア派兵も国連軍だけどどう見てもアメリカ軍だし)

だとしたらその結果としてルワンダ紛争をほったらかしにした罪の意識も 少しは芽生えるのだろうか?

やはりこういう映画は当事者感覚で見ると俄然意見が変わってくる。

(評価:★3)

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