これは要するに、『シャイン』のような「天才だけど精神障害」な人物の伝記の枠組みに、『ファイト・クラブ』的な趣向を足しただけじゃないの？ いまさらそんな程度の話のつぎはぎをもっともらしく見せられてもなあ。それに『ファイト・クラブ』のような元から法螺話の映画ならともかく、「実在の人物の伝記」をもとにした前提の話でこの種の話法を仕込んでしまうのは、ミスディレションの効果を挙げているというよりも、単に不適切なだけのようにも思える。

そもそも、主人公がしきりに雑誌を切り抜いている時点で、暗号解読の仕事が主人公の脳内妄想なのは明示されているのではないだろうか。映画の演出がこれをサプライズ的な仕掛けとして引っ張りたがっているようなのは腑に落ちなかった。

また、主人公ははじめから社交性を欠いた「変人」として描かれているので、ジェニファー・コネリーの演じる女性と良い仲になるのはいかにも「本当らしくない」挿話に思える。この女性の存在そのものが「主人公の妄想」の一部であってはいけない理由はどこにあるのか、よくわからなかった。

いまさら言うことでもないだろうけど、「アカデミー賞なんて全然参考にならない」ことを改めて実感するばかりの二時間（強）でした。