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[コメント] オズの魔法使(1939/米)

黄色いレンガの道の上で。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







この物語と出会ったのは、確かテレビドラマ。断片的な映像の記憶と、シェリーというヒロインを演じた少女の名だけが脳裏に焼きついている。

でも、そこにはまだ物語はない。

次に出会ったのは芝居。とは言えよく新宿コマで演っているようなものではなく、学校の予餞会か何かで見た素人劇。ドロシーはかなり年増だったしトトはぬいぐるみだった。それでもなぜか夢中になった。ブリキの木こりに渡す「こころ」がハート型のデカい(フエルト製の)ピンクッションだったことを覚えている。

そこにはもう物語があった。

兄が持っていた本を読んでみた。とてもおもしろかった。まず、たどるだけでよいという黄色いレンガの道に魅せられた。陶器の町の危うさも気に入った。オズの大王はただのインチキ野郎だった、というオチもよかった。エメラルドの都はなぜエメラルドに輝いているのか、というからくりもよかった。完全なファンタジーには入り込めない子どもだったからこそ、その現実と非現実のほどよい融合具合に惹かれた(のだろう、と今なら推測できる。)

もうなくなってしまったが、日本橋(NOT ニッポンバシ)に三越ロイヤルシアターという劇場があった。小学校の高学年もしくは中学生の頃にオープンしたのだが、芝居の上演がない時には古いミュージカル映画ばかりをあえて上映するという、今にして思えばけっこう奇特な場所だった。

「オズの魔法使」がそこで上映とされると知った時は、嬉しくてしょうがなかった。母と一緒に見に行った。モノクロがカラーになった瞬間ぶっ飛んだ。お気に入りのエピソードがかなり端折られていたりするのは少々気になったが、それでも十分満足した。ドロシーも若かったし、トトもホンモノの犬だった。それに、初めてはっきりと「黄色いレンガの道」を見ることができた。レンガには見えなかったけど、それでもよかった。ドロシーたちが確かにその上を歩いている、というそれだけで十分だった。帰り際に買ってもらった復刻版の小さなパンフレットは、今でも大切にとってある。

高校生の頃、最寄りの駅から学校までの道には、ズラリと銀杏の木が並んでいた。葉が黄色く染まりヒラヒラと地面に積もる頃、道は文字通り「黄色く染まった」。私はそれが大好きで、友人たちに「今年も魔法の黄色い道になったよ!」と言っては「魔法の黄色い靴ならわかるけどな。」「たどりつくのはエメラルドの都じゃないってことは知ってるよね?」「歩きにくいだけだっつーの!」などとつっこまれっぱなしだった。それでも、なんだかもう嬉しくて嬉しくて、妙にハイになってはしゃいだりさえ(つまり、ムリヤリ友人たちと腕を組んでスキップしたり)した。

黄色いレンガの道をたどったところで、たどり着くのはインチキな都。でも、それでもかまわない。たとえそれがインチキなものだったとしても、自分しだいでそこはひかり輝く都になる。知恵だって優しい心だって勇気だって同じ。家、つまり自分の居場所だってそうだ。自分の気のもちようで、それは(実際は嘘だとしても)ホンモノになる。

シアワセやジブンは探しにいくものじゃない。そうではなく気付くものだ。本当は最初からそこにあって、その成長とともにいつしか発見してゆくものだ。どこかにある何かを探すのではなく、自分なりに試行錯誤したり右往左往したりしながら、作りあげていくものだ。

魔法の黄色い道は、生きている以上、きっと本当は誰の足下にもある。勘違いしてはならないのは、たどるだけでよいのではなく、しっかりと歩むことこそがカンジンということ。

久々に再見して、(かなり感傷的な気分にもなって)強く思ったのは、そんなとても単純なことばかりだった。

(評価:★5)

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