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[コメント] カメラを持った男(1929/露)

心地よく眠ることさえできやしない、ダイジェスト集のような映画。
tredair

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







写真と映像の最たる違いは「時間」だと思うのですが、この映画ではその「時間」をたのしむことができません。

たとえば女が着替えをして顔や身体を洗うシーンなども、それぞれの動作が一瞬で終わって次のカットへ移ってしまうので、まるでダイジェストというか「行為の説明のみがそこにある」という感じなのです。その動作や表情のうつろいや周囲の環境や雰囲気やひかりや風やにおいや季節を、緩慢な時間軸とともにゆっくりと味わうことができないのです。

また、前半は映しとる光景そのものが静止していることも多く、それも極めておもしろくありませんでした。静止しているようだけれどしばらく眺めているうちにそのおだやかな時の流れが伝わってくる、といったようなものなら逆に最高なのですが、この映画にはそういった余裕や情緒はまるでないのでただの紙芝居となってしまうのです。

もちろん紙芝居なら紙芝居で素晴らしい!ということも多々あります。でも残念かなこの映画には、その紙芝居を軽快に進めてゆくための気持ちのよいリズムが内包されていないのです。後半の頻繁に場面が変わるところなどを見てもそうなのですが、そもそも冒頭のオケのシーンを見ただけでも驚いてしまったのですが、こちらが切なくなってしまうほどリズム感が悪いのです。ひらたく言って、かなり音痴です。

それでも「こういう映画を撮りたかった」という気概だけでも買いたい。とは思います。けれどもそれについても「物語を補強しようとはしない(説明したりはしない)」といったような宣言をして映画を開始しておきながら「看板のアップ」等を頻繁に差し込んでしまったりするので、どうも素直に拍手を送る気になれません。

たとえば役所らしきところで雰囲気の違う(まさに明と暗の)カップルが何かの書類を埋めているシーン、あのシーンでそれぞれの書類が画面いっぱいに広がった瞬間、私はがっかりしてとても悲しくなりました。「これはロシア人だったらすぐに何の書類かわかってしまうだろうなぁ」と思ったからです。明らかに「物語を安易に説明しようとしている」としか思えなかったのです。

これは映画史的には大事な作品なのかもしれませんが、別にちやほやもてはやすような作品ではない、と私は感じました。特に憎むほどの作品ではないし、「これがロシアだ!」と言われてしまえば「ああ、そうですか」といった気にもなるので、つまりタイトルはなかなか洒落ててカッコイイと思うのですが。が。

(評価:★2)

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