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[コメント] レスラー(2008/米=仏)

背中ごしにセンチメンタル。
たかやまひろふみ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







ハードコアなプオタの友人たちは、アレやコレやと不満を口にしていましたが、ぼかー十二分に良い映画だと思いましたよ。ひどく後ろ向きで甘い物語ですが、でもそれがいいんじゃないですかと。

ミッキー・ローク演じるプロレスラー、ランディ・“ザ・ラム”・ロビンソン。彼の終盤の行動は、一見すると任侠映画のそれを思わせます。「アンタ行かんといて」と泣いて縋る藤純子を振り切って、殴り込みに行く高倉健。嗚呼、背中で吠えてる唐獅子牡丹!

しかし、健さんには背負って立つ「義」があったわけですが、ランディにはそんなものありやしません。利他的な健さんと違って、ランディがリングに向かう動機はあくまで利己的なものです。過去の栄光を忘れられない、今もなお喝采を浴びる舞台に立ちたい…。仕事は冴えない、実娘とも上手くいかない、そんな現実の辛苦に背を向け、刹那の快楽に身を委ねてしまう。控え目に言ってダメなひとです。

正しい人生設計としては、ランディはスーパーの惣菜屋で踏ん張るべきなのでしょう。ひとときの悦楽よりも、地味な努力こそが大切なんですよと。オッサンと呼ばれる年齢になった今、それは鑑賞者であるわたくしの実感でもあります。しかしねえ、一方で「そんなものクソ喰らえだ!」という気持ちもあるのです。「オレを誰だと思ってやがる!オレはアンダーソンじゃねえ!オレはネオだ!マトリックスの救世主なんだ!」と叫びたい。自分を特別な人間と思いたい。大きな声では言えませんが、この欲求はねえ、あります。いつだってあります。マイ・ダーリンです。

だからランディを単なる「ダメなひと」として突き放す気にはなれません。むしろ共感と憧れの眼差しで見てしまいます。ランディとオイラの違いは、オイラには輝けるリングなんて何処にもない、ということです。かつてスーパースターであったことなど一度もない。だからオイラは惣菜屋で踏ん張るしかない。それは分かってる、分かっているんだ。でもこういう映画を見る時ぐらいは、ランディになった気分でラムジャム決めさせて下さいよ。後ろ向きだけれども、許して下さいよ。口移しにメルヘン下さいよと。そう思うのです。うぐぅ。

(評価:★4)

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