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[コメント] 夏時間の庭(2008/仏)

淡くブルーの潜む夏のフランスの光と空気。どこにでも居る様な家族の夏の昼下がりの光景。まるでドキュメントの様なタッチで始まるナチュラルさ。そして夏の終わりと共に、変わりゆく家族と残されるアートの在り方を、さらりと綴るセンスの良さ。
TOBBY

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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もしビノシュが出て来なかったら、本当にどこかの家族のホームビデオを見ながら、それに寄り添っている様な感じにさせる冒頭がいい。個人的には夏の庭の感じや家族の集う雰囲気が自分の故郷のそれと似ていて、思い出とオーバーラップさせてしまった。きっと誰しも、似たり寄ったりの思い出と重なるのでは?。

そして、ひとつの「死」。エレーヌの死を亡くなる場面などを登場させずに子供達の悲しみで描くのが巧い。そして、その「死」が、もたらす悲しみ、混乱、変化を見事に自然に綴り切る。

センチメンタルに捕われて感情に支配される長男(ベルラン)に対し、現実的な妹(ビノシュ)や弟(レニエ)は異を唱える。それは、観ている観客にとっても、どちらが正しいという問題でも無く、残された者たちが生きて行く上での難しさ、相続税などの事も考えさせられる。個人的には、自分も長男であるしベルランに肩入れをして見守ってしまったが、彼の大人の決断もまた、仕方の無い事である。

お手伝いのエロイーズ(サドヤン)の視点が消え行くものへの悲しみを観客に伝える。彼女が屋敷に付くと、黒服の男達が家中の装飾品を検分したり梱包したりしている場面には観客の感性も大きく揺さぶられるはず。ただし、彼女に例の花瓶を持って行かせるエピソード等、とても爽快でアサイヤス監督は本当にバランスのある人。

美術館に引き取られた工芸品を観に行ったベルラン夫妻が、その工芸品の前を観光客が気にもせずに簡単に立ち去る姿を観てガッカリする姿が微笑ましい。しかし、彼が、花瓶に花を生けずに飾っておく事に意味があるのか?という言葉にはハッとさせられる。なんでもかんでも美術館に!という傾向は世界各国にある様であるが、アートの本来あるべき姿を考えさせられる。

淡々と描かれて来たストーリーも、ラストではベルランの娘の世代で、ガラリと印象が断ち切れる。バイクで生家に集うティーンたち。スケボーや、バスケット、響くパーティーナンバーに包まれる古い屋敷。それもまた、ひとつの姿であり、それぞれの時代を軽妙に切り取っている。そして、彼女も世界に抵抗をしているようで実は充分に祖母の庭を、家を愛しており、奪われる事に嘆いているのである。

邦題制作者も、作品に溢れる”夏の空気”、”夏のまどろみ"などが印象に残ったのであろうが「夏時間の大人たち」なる似た様なタイトルの作品が既にあるのだから、もう少し工夫して欲しかった。 変にベタベタ描かずに、102分にきっちりとアンニュイに逃げ切らずにテーマが感じとれる余韻の残る家族の物語。

(評価:★4)

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