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[コメント] 地獄に堕ちた勇者ども(1969/伊=独=スイス)

滅びる中に漂うデカダンな美学。抽象的で伝えづらいと思うのだが見事に映像の中に留めている。ヨーロッパでしか醸し出せない雰囲気の中に息づく、背徳で残酷な様式美。派手に振る舞うヘルムート・バーガーよりも終盤のイングリッド・チューリンの狂気を滲ます白肌の存在感を観よ。
TOBBY

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







明快にストーリーを追おうとすると困惑が生じる人も居るかもしれない。けれど映画と言う芸術の中のひとつの作品として感覚的に捉えると、その困惑すらも不道徳さを伴うある種の心地良さへと繋がる。

健全さや太陽の光が眩しいのは誰にとっても同じ事。 不可解で、やるせなく不条理ですべてを投げだしたくなるような、そんな理屈じゃなくて感情の赴くままにずるずると堕ちて行く中に独特の美意識を描こうとしたヴィスコンティの野心がヒシヒシと伝わって来る意欲作でもある。

役者達は、その貴族的な威厳を保ちながらも、触れれば途端に崩れてしまいそうな緊張感と脆さの共存する作品の空間の中を観客達を翻弄するかの様に見事に立ち居振る舞う。

目を惹くのはランプリングの鋭角な美しさや、一族を手玉に取る様に自在に動くバーガーであったりするのだが、圧倒されるのは冷酷さと哀しみの狭間からついには狂気を感じさせるチューリンである。

終盤の挙式のシーンでは、白い肌を、より人工的に白く塗りあげる白粉が、彼女に生命を感じさせない人形のようでいて美しさと恐ろしさを秘めた存在に仕立て上げており、ビームの様に負のオーラを放たせる。

本作に置けるチューリンの演じるヒロインだけを、ずっと追うだけでも作品の放つ世界観をたっぷりと堪能し、どっぷりとデカダンに浸れること間違いなし。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)けにろん[*] ジェリー[*]

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