[コメント] ウェディング・シンガー(1998/米)
この世界では、インターネットなんて未知の存在だし、携帯電話なんてもってのほか。ルービック・キューブが爆発的に流行していて、デイヴィッド・ボウイは「♪れっつ・だ〜んす」の人で、ヴァン・ヘイレンではデイヴ・リー・ロスが歌っている……あと、ジョン・トラボルタが最初のスランプ期に突入しているのだ! だって舞台は1985年なんだから。
1974年生まれの僕らの世代にとっては、懐かしいというよか、記憶混沌たる小学生時代。 もうちょっと上の世代にとっては、懐かしいというよか、痛い! 僕らより下の世代にとっては、なにこれ? そんな、微妙な微妙な時代の「おかしさ」をちりばめつつも、イカす音楽をミュージカル的に配置し、物語はわりとストレートなラブコメ、それが本作、『ウェディング・シンガー』だ。
本作がつくられた当時(1998年)、ドリュー・バリモアは落ち目もいいところだったそうだ。ご存じ『E.T.』(子役で出演)での成功はつかのま、なんかスピード結婚&離婚しちゃったりと奇行ばかり目立ち、ワイドショー的露出はあれど俳優としては……という時期だったという。その彼女が「本当の愛をさがす夢見る花嫁」という役で登場というのは、日本じゃいざしらず、本国アメリカでは当初「ミスキャストじゃないの?」とツッコまれまくったということだ。 とはいえそれも映画公開までの話で、本作のヒット以降ドリュー・バリモアの株は急上昇、いつのまにやらチャーリーズ・エンジェルの一人にも選ばれちゃったりした。いまや彼女はアメリカを代表する女優だものね。ミスキャストだなんてとんでもない、ということか。
結婚式などのパーティ専門の歌手、それがアダム・サンドラーの役どころ、ほんとうはシンガー・ソングライターとしてデビューしたいのだけど、売れないのでウェディング・シンガーに甘んじている。でもそんな彼もいよいよ挙式……と思ったら式当日、花嫁に逃げられた。
いっぽうドリュー・バリモアのほうは結婚式場の新人ウェイトレス、長年のフィアンセとの結婚をひかえ幸せの絶頂……と本人は思っているが、なんとその彼氏はひどいクワセモノ。だけど彼女は気づいていない。
そんな二人が出会うべくして出会って……とくれば、ストーリーはだいたい想像できると思うが、じっさいの話も9割方想像どおりに進むぜ! という感じで予定調和丸出しのお話なんだけど、いいんだ、面白いから。
もうね、ベッタベタの展開が連発。「女性が男性に求めるのは経済力より愛」だとか、「信じていれば夢はかなう」だとか、お前はいったいいつの武田鉄矢だといいたくなるような、スレた大人にはハンとか鼻で笑われそうな、そんな物語。でもいいんだ、僕スレてないから。こういうの好きだから。だってそうじゃないとねえ、やりきれんよ実際。
ストーリーだけじゃなくギャグのほうもベッタベタだ。スレてない感性にはこれも愉快。80年代音楽の小ネタもあるにはあるが、おおむね誰でもわかるみたまんまのギャグが大半だから、なやむ必要はまずないだろう。頭つかわずに素直に笑おう。とくにクライマックスシーンは展開・ギャグともにベッタベタ大爆発だが、主演二人のキャラのおかげもあって不快感ゼロ、それどころか思わずグッときたりしちゃってな。笑わせて笑わせて最後ホロリとさせる王道っぷりなので期待していいぞ!
好きな俳優を三人あげろといわれたら、僕がらぜったい選ぶスティーブ・ブシェミ先生がいい役で登場しているのもスバラシイ。どんな役かって? その名も「迷惑な酔っぱらい」……じっさいにDVDの解説にも「迷惑な酔っぱらい」と書いてあるのが痛快至極。『ゴーストワールド』でも『レザボア・ドッグス』でも、そしてもちろん『コーヒー&シガレッツ』でもおなじみの、あのトホホキャラが大暴れするので、迷惑な酔っぱらいファン(そんなものはいない)はぜひご覧アレ。
そうそう、書き忘れていたけど、アダム・サンドラーて本当に歌がうまい。劇中のシンガーっぷりは板についているし、わざとヘッタクソに歌う部分までうまいというおまけつき。しかも劇中彼が披露するオリジナルナンバーは、なんと本当にアダム・サンドラーの作曲だったり。これがまたけっこういい曲で参ったゼ! 連発するカバー曲には、デッド・オア・アライブ、ボーイ・ジョージ(カルチャー・クラブ)、それにジャーニーも登場。音楽的にもけっこう豪華なことになっているので、音楽ファンなら聴き逃してはイケナイ。
以上、観て楽しいお気楽ラブコメなので、新婚さんや恋愛進行中のラブ野郎どもはもちろん、寂しい心の持ち主(僕はこれかな……)や、こともあろうに結婚式で新譜に逃げられたばかりの人(いる?)も安心してご鑑賞めされい。
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