・・・彼はノーマの拳銃を丸で相手にしないで邸宅を去ろうとする。一発，二発，　撃たれても止まろうとせずに，三発目を受けて「あんなに欲しかった」プールに没する。彼はノーマには撃てやしないと嵩をくくっていたのだろうか？それともわざと撃たれる心算だったのか？

　ぼくはその両方と思う。死んでから始まる彼の語りも考えてみれば変に軽妙だが，映画界で辛酸を舐めてきた主人公は，その栄華の没落した姿を目の当たりにし，憐憫と虚無を感じたに違いない。半ばわざと彼女を裏切り，その狂気(凶器)の前に身を晒したのではないか。

　アイデア映画でも描き込めば充分ドラマになる，というワイルダーの宣言だ。