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[コメント] ザ・コーポレーション(2004/カナダ)

あらゆる価値判断で金銭を基にしている現代の思考そのものが、いま転換を迫られている。3.9点。
死ぬまでシネマ

異常気象による災害が日本のみならず世界各地を襲う。するとTVのニュースは言う。「未曾有の大災害で被害総額は…」大規模なイベントが開催され、多数の観客が訪れる。するとTVのレポーターは言う。「この興業収益は総額…」見事な建築が出来れば「総工費は総額…」… 何もかもが「カネ」を基準に判断されている。ふと冷静になればこれは凄まじく異常でいびつな思考回路だ。これは「企業」が齎したものか。それともこんな「人間」の本性が「企業」に宿ったのか。

相変わらずマイケル=ムーアは名アジテーター(オルグ)だ。彼の弁舌を聴いていると血が熱くなっちまった。だが、嘗て『華氏911』にコメントを書いた時、その反発に驚いた。ムーアの映画は誇張がある、という冷静な指摘ならまだしも、彼を新たなファシズム(専横)の様に受け取る感情的拒否。彼に拍手喝采する中に「盲従」という危険がある事は解るが、それは観客側の問題であって、目を開いて世界の現状を見ればムーアが如何に勇気ある貴重な反論の声であるか判るだろう。それは余りに弱くしかし多数である抑圧されている側からの叫びである。彼を「偉そうだ」とか「決めつけてる」というひとは、自らが如何に自分以外の<体制の意思>に絡め取られているか気づいた方がよい。何れにしても、常に思考の柔軟性(=批判精神)を失っては駄目だ。

この作品は、そんな思考の柔軟さを見せてくれる。われわれ先進国の人間が普段寄り掛かって生きている、現代最大の<体制(=既存構造)>と化した「企業」を鮮やかに分解してみせる。そして残る本質は何か。…とするならこれから先はどんな未来を模索してゆけばよいのか。止まらず、観客(=人類)が乗り越えなければならない課題である。

嘗て社会主義(の語る理想)は、人間を悪しき社会構造から救済し<本来の善性>を機能させようとした。しかし、人間は善性だけでは存在できなかった。現代社会は社会主義の「<理念による統制>の敗北」を踏まえて一見<自然の摂理>を尊重しているように見える。しかし「企業」という構造を用いて経済を膨張させる手段を取り続けた結果、人間はやはり本来の姿を奪われてしまった。止まらず、新たな未来を模索しなければならない。

配給したアップリンクを主宰する浅井 隆はパンフレットにこう寄せている。「日本公開にあたり"資本主義サバイバル・シネマ"と副題をつけました。ここには、今さら資本主義を否定したところで私達は"資本主義社会"というジャングルで生き続けなければならないのは現実なので、まず、ジャングルで生き延びるためにはジャングルそのものの生態や仕組みを知らずして生き抜く事は出来ないという意味を込めました。」知る事は第一歩になる。首についている手綱に気づけば、逆にこっちから引っ張る事も出来るかも知れないという事か。

(評価:★4)

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