コメンテータ
ランキング
HELP

[コメント] 晩春(1949/日)

寝るとき位は化粧を落した方がいいのじゃなかろうか。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







というのがこの映画の一番の感想である。即ち、肩パット含め原節子の化粧は濃過ぎである、と。

しかしそれでは観賞態度を疑われそうなので附言すると、矢張り笠 智衆が凄い。原 節子の情念と眼ヂカラも確かに傑出しているが、その異常性自体は必ずしも珍しいものではない。大抵の女性であればあの種の「狂気」はどこかに内在しており、条件によっては表出し得る、というのが私見である。しかしそれを銀幕にあの様に表現出来た事は見事と言える。(しかも紀子()をただの近親愛者とせずに冒頭に助手の服部(宇佐美 淳)との不倫(そう言って良いだろう)を描き、それによって原の異常性が複雑である事を表しているのも見事である。)

驚くのは対する父=周吉の安定振りである。よく視ていると父親も娘に劣らず結構強情且つ強引なのであるが、その強引さが娘とは対照的に、決して激情に振り回されない。父親は幾度となく狼狽もするのだが、その狼狽でさえ静かで安定している。この後の映画でも一貫してそうだが、丸で真綿にくるまれたようなの演技は、観客に「笠に対する反感」というものを抱かせる微塵の可能性も与えない。唯一無二の傑出した役者である。(しかし本作に対する3819695さんのreviewは言えなかった事を言ってくれていて面白い。そう考えると紀子との対決に於ける視線を一切外さぬ周吉の覚悟にも一層の緊張感が宿るし、最後に周吉が明朗な北川アヤ(月丘夢路)を熱心に誘うのも妙に得心が行く。)

しかしそれでも今回は笠 智衆の若々しさに新鮮味を感じた映画だった。狼狽した時の笠の眼が子犬の様にキラキラしている。また両手が若々しい(リンゴの皮剥きの時かな?)。(cf.全く余計な事だが、『陽のあたる教室』('95/米)でR.ドレイファスの両手がアップになった時、その役柄にそぐわない老人の手に失笑したものだ。)「父さんはもう五十六だ。もう人生は終わりに近いんだよ」とかおっしゃいましたが、とんでもない。実際はその後の人生でも沢山良い仕事をされましたね。

(評価:★4)

投票

このコメントを気に入った人達 (6 人)おーい粗茶[*] 煽尼采[*] ぽんしゅう[*] づん[*] ジェリー[*] 3819695[*]

コメンテータ(コメントを公開している登録ユーザ)は他の人のコメントに投票ができます。なお、自分のものには投票できません。