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[コメント] 人間の條件 第5部死の脱出・第6部曠野の彷徨(1961/日)

終盤主人公が直面する地獄と彷徨は、現実に同胞を襲った悲劇であり胸にせまる。題名の「人間の條件」とは何なのか。考え込まずにはいられない。
死ぬまでシネマ

この作品には日付的なものは出てこない。赤軍の機械化兵団が北満国境から怒濤の侵入を開始したのが8月9日、長崎原爆の日であるが、主人公の梶は無論そんな事は知らない。戦争(戦況)がどうなっているのか、日本本土や国際関係がどうなっているのかは勿論のこと、妻のいる南満がどうなっているのか、否自分がどこにいるのかさえ判らないのだ。右翼的な友人はよく「当時の状況を考えてものを言え」と言っていたが、何も見えない不安と恐怖、その点で彼の言っていた事も尤もだと思う。

     ◆    ◆    ◆

ソ連軍による酷寒の地での日本軍捕虜の酷使。収容所内での同胞による陰惨な仕打ち。この事は史実だけに心を痛めた観客も多かっただろうが、では1・2部での炭坑労働に使役された中国人を見て同じ位心を痛めた者はどれ程居ただろうか? 中国人に肩入れする梶を「戦時中なのにバカだな」と思っていなかったか? 戦争そのものを描いた3・4部を挟み、この5・6部と1・2部は鏡像を成している。故に1・2部は描かれねばならなかったし、敢えて拙い中国語でも日本人が演じた意味があるのだろう。あなたは人間であろうとした梶を嗤うのか? …では日本はいつか必ず再び同じ地獄に塗れるだろう。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (3 人)けにろん[*] パピヨン IN4MATION[*]

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