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[コメント] ブラス!(1996/英=米)

人を結びつけるのは想像力。☆3.5点。
死ぬまでシネマ

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

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80年代以降、英国では炭坑閉鎖が相次ぎ、大量の失業者を出した。21世紀の人間から見れば、石油以前の主力燃料であった石炭は、時代遅れ以外の何者でもない。先日のCOP(気候変動枠組条約会議)でも「No Caol」を掲げた市民デモが行進した。21世紀の人間から見れば、炭坑が無くなって行くのは当然の帰結だ。

この映画では炭坑労働者の無力感が延々と描かれる。音楽に取り憑かれたリーダーである元炭坑夫(ピート=ポスルスウェイト)以外は、高い水準を持ってい乍ら音楽に誇りを持てておらず、惰性で活動を続けている。彼らの誇りの根源である炭坑労働が既に打ち砕かれていたからだ。それでも彼らは最後の矜持で、ロンドンでの音楽祭決勝まで駒を進める。

栄冠を手にした時、リーダーの元炭坑夫(ダニー)は、その栄冠に虚しさを感じざるを得ない仲間たちの現状を初めて理解し、首都の観客に向かって政府が炭坑に対して行なってきた事を訴え、そして自分たちの町への帰ってゆく。

映画としては音楽に対するぶつかり合いも無く、炭坑閉鎖への道にも結局何ら抗えず、若い男女(ユアン=マクレガータラ=フィッツジェラルド)の恋物語もパッとせず、とても名作と言えるレベルでは無かったと思う。ただ、以前に「最初(ぼくが)息子と気づかなかった息子が良いです」とコメントした様に、どん底まで叩き落とされるリーダーの息子役(スティーブン=トンプキンソン)の演技には、胸に詰まるものがあった。

これは観客の想像力の問題なのだと思う。時代の流れとはいえ、誇りを持っていた仕事を奪われ、家族が引き裂かれ、土地を追われる。こんな事は『フラガール』を観るまでもなく日本の炭坑町にもあった。それは当然の帰結なのか。時代が変われば乗り遅れた人々が悲嘆にくれる。これは当然の事なのか。

それでは政治は必要ない。政治が何もしていない。庶民が勝ち馬に憧れる様な映画なんて見たくない。俺は、最後のダニーの訴えに耳を傾けたい。

(評価:★3)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)Orpheus

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