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[コメント] 海の上のピアニスト(1998/伊)

存在しないピアニストが海の上で人々のために奏でるメロディは、「アメ〜リカァ〜」という旅の終焉を告げる言葉に掻き消される。人々がたどり着く地、そこは彼から見たら「終わりの無い世界」=天国か地獄に見えたのだったろうか。
nob

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







一瞬にしてその人そのものといったメロディを奏でてみせるナインティハンドレッド。 この世に存在していない彼の存在する筈の無いメロディに魅了される人々。 限りある鍵盤の中で、無限の世界を表現するピアニスト。 人々に注目されるその瞬間、彼は彼自身の存在を強烈に証明する。

その彼が限りの無い世界でどんな自分を表現できるというのだろう。 誰かのためにメロディを奏でることで存在意義を確認していたナインティハンドレッド。 存在の証明のため、注目を浴びるために、その終わり無き地で地位や名誉やお金を求めてしまえば、「ジャズの発明者だ」と自分の存在を鼓舞するジェリー・ロール・モートンと同類になってしまうのではないか?

そしてそのジェリーは、ピアノ対決に負けるとまるで死人のように去っていった。 ナインティハンドレッドに負けて自分の存在がわからなくなったからなのだろうか? それともナインティハンドレッドが最後に奏でたあの怒りに満ちたようなピアノは、モートン自身を現したもので、そのことに気付いて打ちひしがれたのか? 凡人には判り得ない世界だ。

降りる勇気、降りない勇気、 そこには着目しなかった。 ただ、このピアニストの正直で素直な人間性を羨ましく思い、そして迷いの無いその人生観に圧倒された。

だってほら、周りを見回しててみれば、 自分の居場所も死に場所も自分で決められない人間ばかり。

俺自身もそう。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)アルシュ[*]

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