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[コメント] 隠し剣 鬼の爪(2004/日)

前作『たそがれ清兵衛』から、ますます進化している。老いて盛んな山田洋次
chokobo

松竹映画はロケが多いことと、ホームドラマが多いことがここ数年の傾向だったような気がする。

何しろ日本で最も古い映画会社である、初めてのトーキー、初めてのカラー、その時代を先行する映画会社であり、やはりホームドラマのメッカでもある。

山田洋次監督は、そんな松竹映画を長年支えた監督である。前後の世代に今村昌平大島渚などがいて、もっと前には小津安二郎がいて、この伝統ある映画会社で、会社が混乱したり、同世代の監督が会社を飛び出す中で、オーソドックスな映画を作り続けてきた。

男はつらいよ』で代表されるが、実は喜劇だけが彼の趣味ではない。初期の監督作品に松本清張原作の『霧の旗』という倍賞千恵子さんが主演の作品があるが、女性の復讐劇を泥臭くそして重たいイメージで表現した。

その後コメディを中心に、彼の人生のほとんどを『男はつらいよ』が占領するが、要所で見事な作品を作っている。

そのひとつは『家族』であろう。この作品が彼のベースとなっていることは明らかで、その後の『幸せの黄色いハンカチ』や『遥かなる山の呼び声』などでも、土着的な表現がされている。

そして渥美清亡き後続いた『学校』シリーズである。私はこのシリーズがあまり好きではない。山田洋次監督が松竹と『男はつらいよ』の呪縛から解き放たれれば良いと思っていた私にとって、『学校』シリーズは結局松竹から離れられないものと感じたからだ。

そして前作『たそがれ清兵衛』に続き、本作である。

時代劇を連作する山田洋次監督にとって、あだ討ち、復讐は、松竹に対して、あるいは初心(霧の旗)に戻る、という意味で説得力があるように思う。彼は決して自らの主張のみで映画を作らない。原作をいつくしみ、丹念に脚本を書き、周辺に詳しいヒアリングを行い、役者一人ひとりを説得し、周辺を固める。そして結実させてゆく。

この粘り強さは、今の若い映画監督にできる芸当ではあるまい。

本作では、山田監督の経歴を随所に織り込んだ作品になっている。細かい箇所でコメディタッチな場面があったりする。

そして今回磨きがかかったショットがいくつかある。

狭間がかごに揺られて川を下るシーン。かごの向こうに少し見える風景だとか、最後の決闘シーンの小屋の中、照明が次第に暗くなる重たいシーンである。こうした細かい映画の中のシーンが残るのは何なのだろうか。

やはり映画がその歴史を刻んでいる証拠なのではないか。

特に松竹ではぐくまれた山田洋次の技術は松竹のものだ。東宝でいう黒澤明成瀬巳喜男、東映でいう内田吐夢、そして日活のものでもない、やはり松竹映画なのだ。

原作を知る者に特別な感情はあるまいが、長年松竹映画を見ている者としては、少し違う思いのする素晴らしい作品だった。

(評価:★4)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)死ぬまでシネマ[*]

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