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[コメント] 笑の大学(2004/日)

劇場が爆笑で揺れ動いているシーンに涙します。劇場というスペースの原体験。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







三谷幸喜タッチには感服する。『ラヂオの時間』の面白さを戦中時代に置き換えて見事なディテールを構築できていた。すばらしい映画だった。

星護作品ははじめてだが、明らかに三谷幸喜を意識している。それぞれのシーンが丁寧で、見ごたえがあった。

三谷幸喜の出世作、『12人の優しい日本人』と同様、この映画は密室で進行する。検閲を行う警察官と、舞台演劇の台本を書く作家の対決である。

この対決はいずれもしたたかで、双方の能力がぶつかりあう。エッセンスとしては、強引極まる警察の横暴さというものが上手に描かれていて、権力との対決姿勢が如実に表現されている。

それまで腹の底から一度も笑ったことのない警察官と、喜劇の台本を書く作家との対決は、現代では想像もできないようなシーンの数々である。このシーンの積み重ねをもって、この映画全体がシニカルになっているようだ。

密室のシーンで見事だと思うのは、それぞれのアップのシーンで、本来対象の目線の先に空間をもってくるところだが、この映画では警察と作家のそれぞれ頭の後ろ側に空間をおいている。これはそれぞれの立場が絶対に交わることがない、ということを表現しているのだろう。こういう空間の使い方はなかなかできない。

そして個室の光である。要所に窓の外からの光を取り入れ、シーンの重要性を高めている。そして最後の対立するシーンでは、それぞれが正直な気持ちを吐露することによって、かえってお互いの立場の違いが明らかになるのだ。これは窓の外から差し込む光の加減が立場を浮き立たせている。

何よりもこの映画が我々を感動させるのは、多くの密室シーンとは裏腹に、警察官が劇場を訪れ、そしてそこに集い笑う観客のシーンである。舞台にせよ映画にせよ、これが劇場の原型だろう。このシーンを活力あるものにすることで、密室で描かれる2人の対決が、より密度の濃いものとなってくるのだ。

この劇場のシーンで涙する警察官の姿こそが、この映画のきっとすべてなのだと思う。

今コンテンツは劇場を飛び出し、個別化している。シネコンの普及で映画館は活気をおびているが、我々が幼い頃に経験した劇場はまさにこの映画で表現されているものだった。面白くても悲しくても、そのことが映画の画面から伝わってくること。そしてそれいが決して自分の理解するところではないとしても、同じ劇場で同じ空間を体験する者達の影響で同じ気持ちのなれたものである。

この映画の感動をぜひ映画館で体験し、そしてそれを多くの人々と体験したいと思った。

(評価:★5)

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