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[コメント] ノーカントリー(2007/米)

ありきたりですが「正義とモラル」
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







国境を超えた話では、最近ですと『バベル』のエピソードがありました。あの映画は日本とアメリカとメキシコとモロッコと・・・。たくさんの国境を一気に超えるスピード感と残酷さが象徴されていて面白かったですね。

グローバル化が進むと言われていますが、この作品でも表現に微妙に表わされていない差別とか偏見とかが見え隠れしますね。まさに『ノーカントリー』です。

検問所を行き来する人々。そしてこのドラマに出てくる数人の人物も国境の検問所を行き来します。逃げる者、追う者。

国境付近で金を持って逃げるルウェリン・モスが血まみれ姿でメキシコ人3人に洋服を売るようお願いしますね。その時に500ドル渡します。そしてついでにビールも渡すようお願いします。すると「あといくらくれる?」

そしてラストシーンにも同じシーンがやってきます。殺人鬼アントン・シガーが突然、交通事故で怪我をして、通りすがりの少年に服を売るようお願いします。すると少年は、国境付近の人と異なる反応を示します。

「人助けですから金はいりませんと」

たぶん、このシーンの対比がすべてなんだろうと思います。

途中、トミー・リー・ジョーンズ扮する保安官が、ルウェリン・モスの殺害現場を離れる時、地元警察としんみりした会話をしますね。悪いのは金と麻薬だ、とか、若い子供が敬語を使わなくなったとか、歳を重ねた年配の方がよく使う言葉と会話。

言葉としてこの映画を包む複雑な社会の現状とモラルは、ほとんどトミー・リー・ジョーンズが話すセリフに集約されています。ラストシーンもそうですね。引退した初日、隠居して見た父親との思い出。その思い出で父親は自分よりずっと先を馬で走っています。(これは言葉でしか表現されていません)

このラストから、この映画全体を振り返ると、なんとなくこの映画の言わんとしているとがわかります。年老いた自分(たとえば保安官)が、現実の若者の犯罪とか社会の変化について行けない、と言葉にしても、夢で見た父親はずっと先を走っています。

つまり社会の変化は止められない、ということなんでしょうね。

そんな中、唯一この映画の中で徹底したモラルと正義を押し通す男が、殺人鬼アントン・シガーですね。ルウェリンがシュガーと言い間違えますが、これはジョーク。甘いも辛いもない、ということですね。

この映画で徹底して殺しを淡々と続けるプロのシガーには全くブレがありません。どんな場面でも相手の反応を見極め、音を確かめ、緻密な計算のもとに徹底的に殺しまくる殺人鬼。

でも、この恐ろしい殺人鬼が淡々と繰り返す殺人の徹底ぶりに、最後はすがすがしさを感じるのはなぜでしょう。自分に対する恐怖を感じてしまいます。

主人公の殺人鬼が行う徹底した殺人ぶりと、アメリカとメキシコの国境付近で生活する人々の変化とモラルの比較が、今の社会全体に浸透するグローバル化の現実を表現しているんでしょうね。

素晴らしい作品でした。

あとからジワジワくる映画ですね。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (1 人)けにろん[*]

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