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[コメント] 劔岳 点の記(2008/日)

八甲田山』の逆襲だろう。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







木村大作監督はこの作品で、かつて挑戦した数々の作品の中から『八甲田山』をチョイスして復讐しようとしたんではないでしょうか。

と申しますのも、あの作品の混沌とした世界、それはかつて黒澤明監督の弟子だったあの作品の監督森谷司郎の作品で成し遂げることのできなかったことをこの作品でリベンジしたかったと思われるからなんですね。

確かに『八甲田山』は大作であり、当時大ヒットしましたが、本当に木村大作さんが撮ろうとしたシーンは得られなかった。それは暗い照明でありVFX技術の未熟さであり、自然を捉える技術力であり、ありとあらゆる現象があの映画では達成できなかった。

この作品でも数々の名場面がありますが、人物をかなりないがしろにして、冷淡に自然描写を追究していますよね。それは木村大作監督がどうしても描きたかった自然に対する再挑戦だったんだと思うんです。

お話としてはあまり臨場感を感じる内容とは思えませんが、その挑戦する意思に敬意を表するべき映画なのではないでしょうか。

それにしても最後のシーンは特に感動的でしたね。頂上を目指す直前に、これまで隊を導いてきた長次郎(香川照之)が、先頭を譲ろうとします。それを制して芳次郎(浅野忠信)が、「あなたが先頭でないと、私は頂上に登りません。私たちは本当の仲間なんでう。」の淡々としたセリフ。そして最後の最後に頂上を目指そうとする一行の目線とストップモーションに思わず嗚咽してしまいました。

香川照之さん演じる長次郎は黒澤明監督の『デルス・ウザーラ』を思わせる迫力で、その謙虚な姿、強い意思、そうしたこのキャラクターを見事に演じきっています。この過酷な撮影の中心となったこの人物に乗移るには相当な覚悟がないとできなかったでしょう。

2010/01/27(自宅)

(評価:★4)

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