細田守作品はもちろん初めてではありませんし、ある意味これまでの集大成的な映画であって、しかも展開がとてもわかりやすく、美しい映画なので、文句なく面白い映画なんですが、なんでこれほどまでにグッとくるような涙が止まらないのでしょう。

冒頭、大学生の先輩と後輩の関係で田舎のお盆に集まる家族たち。この風景描写が見事ですね。空間と余白を十分使ったシーン。

お婆さんとの面会、和馬との出会い、侘助の乱入、そして健二が突然容疑者としてテレビに映し出される、このあたりまでのスピード感あふれる展開描写が素晴らしいですね。アニメで大御所になると、導入部の表現に自信満々で、まだるっこしくなる（例えばりんたろうさん）なる場合が多いのですが、アニメであることを目いっぱい自覚している表現手法ですね。そういう意味で細田守さんと宮崎駿さんは似ています。アニメであることの謙虚さを自覚していらっしゃるように思えますね。

そしてアカウント攻撃に突然見舞われる社会。それに立ち向かおうとする若者たち。この辺のイメージは、ぼくらのウォーゲームと同じなんですね。完全にデジタルの世界です。時をかける少女でも同じことが言えるのですが、デジタルワールドを若い方たちがどのように”つかいこなすか？”が細田さんの部分的なテーマになっていて、いずれの作品でもデジタルというツールの操作が危ぶまれていることを示そうとしているようです。

そして、本作で最も感動を呼び涙を誘うのは、実はお婆ちゃんだったわけです。栄お婆ちゃんの言葉、立ち居振る舞いなど、その一挙手一投足がこの映画の主題です。

アカウント攻撃に遭遇したことを何となく理解したお婆ちゃんは、自らの意志で周囲を励まします。電話をかけまくる、その黒電話のジーコジーコという音がとても印象的だったりすのですが、この周囲を励ますシーンで思わず涙。

「人と人とのふれあいを失ってはいけないんだよ。」

くしくも「人を助けてこそ自分を助ける」という黒澤明の『七人に侍』の勘兵衛（志村喬）の台詞をそのまま背負い込むようなお婆ちゃんの言葉に大きな感動を覚えるんですね。マジで泣けました。

そしてお婆ちゃんの死。

その死を本気で背負うのが健二くんだったりするのですが、彼と和馬が戦うデジタルワールドは正に細田守ワールドですね。デジモンで挑戦した、あの世界です。

そして自らの意志で拡大するコンピュータがあらゆるアカウントを獲得し、ＧＰＳ機能をも飲み込み、ついに衛星の軌道もコントロールしようとします。

ここからがクライマックスですね。

最後の最後に夏希が自ら戦いを挑み、アカウントを飲み込む悪魔のコンピュータと戦うシーンにも胸からこみ上げる涙が止まりません。これも『ぼくらのウォーゲーム』で使われた展開ですが、世界のあらゆるユーザーが夏希に自らのアカウントをゆだね、最後の戦いを挑む。この場面の感動は言い尽くせないものがありますね。

勝負のツールが花札というのもいいですね。詫助、お婆ちゃん、と花札を使うシーンが何度か出てくるのですが、こういう使われ方をする複線であったことは想像できませんでした。

花札といえば任天堂ですが、最後の戦いでみんなが携帯やＤＳを使って敵と戦うところは見ていて面白かったですね。

お婆ちゃん亡き後、このコンピュータを生み出した詫助を含む家族全員が一致して戦う姿は現代が忘れていることを呼び起こす効果が十分あったと思いますね。

お婆ちゃんから家族に宛てられた手紙にもありましたが、みんながそれぞれの個室（コンピュータ）に閉じこもり、家族で食事をしないことがなういように・・・

これぞ正に、日本に失われた何かなのではないでしょうか？

肌触り（ふれあい）を失った現代は、他人を殺すことに何の感情もいらなくなってしまったようですね。いつからこんな時代に突入してしまったのでしょう。

この映画の敵がそうだったように、いずれもゲーム感覚なのでしょうか。

だから痛みを感じない、涙も流さない、そんな時代に強いメッセージを流すことは不可能なんだと思うんですね。

そういう社会で、このような映画が生み出されるのは時代の必然なのかもしれません。

これは未来の話や架空の話ではなくて、かなり近い現実であることをもっと多くの人が考えて見るできだと思うんですね。

2009/8/8　T-joy大泉