[コメント] ヒミズ(2011/日)
映画を見終った人むけのレビューです。
これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。
近く、知り合いに誘われて被災地へボランティアに行きます。きっと何も出来ないと思いますけど、とりあえず行ってみます。
そんな時期に観た映画なのでちょっと受け止め方が違いました。
ドラマの設定と被災地の関係については、映画で全く説明されませんが、それがまた本編の苦悩と恐怖、そして狂気をよりリアルに浮き立たせます。あの被災地のシーンはどんなに巨額の資金を注ぎ込んでも実現できないでしょう。凄まじい惨状。
そしてドラマはより凄まじい悲劇。親に「産まれてこなければよかった。」と罵られ、虐げられる二人の中学生。
挙げ句に親を殺して自分も死のうと思っている少年と、親から自殺を迫られ行き場を失った少女。
マンガが原作とはいえ、余りに無惨な現実を照射する。
画面は相変わらず安定せず、被写体の位置や画面構成もムチャクチャ。
時々出てくる月のシーンだけが安定している。俯瞰から見下ろされる人の愚かさと救いのない世界を逆説的に物語っている。顕著なのが父親殺しのシーン。低い位置にあったカメラがどんどん高い位置に上がって、少年が父親を撲殺するシーンを長回しで追いかける。
この少年が泥まみれになるシーンは圧巻。
『地獄の黙示録』でカーツ大佐を殺しにゆくウィラード大尉が沼から顔を出すシーンが重なる。
正に狂気。ホラーだ。
そういう意味ではこの映画は宗教的でもある。
父親殺しというエピソードそのものが宗教的で、この事件をきっかけに自らの死と引き換えに、世の中に害となる人を殺そうと街を彷徨する少年。
ストリートミュージシャンを殺そうとする男と対峙し「俺はいったい誰なんだ!」と叫ぶ姿に、自己同一性の破壊が始まる少年。
園子温監督の作品には、もともと救いがない。
『愛のむきだし』にせよ、『冷たい熱帯魚』にせよ『恋の罪』にせよ、まるで救いがない。
本来、企画段階のこの映画も救いのないストーリーだったはずだが、去年の震災を境にこの映画のや最後は救いを求めるシーンで終わる。
住田、がんばれ~!!
を連呼しながら少女に諭されて自首するために二人で鳴きながら走るシーンは涙を抑えきれない迫力があった。素晴らしいシーンだ。
このシーンに至るまでの救いのない世界に挑戦するような、見事な力強さ。
それにしても園子温監督作品でかつて活躍した俳優のオールスターキャスト。特にでんでんの存在感は強い。
そしてなんといっても若い二人の主役。
『愛のむきだし』で満島ひかりが大熱演したときのシーンを彷彿とさせる迫力。
見事だった。
ただ、テーマと衝撃性という意味では、過去の園子温作品の焼き増しでしかなく、暴力性と残虐性で過去の作品を越えようとしていないのはちょっと残念。
それほどまでに大震災がもたらした疵痕の重みを感じるには十分の映画ではあったが。
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