[コメント] 抵抗〈レジスタンス〉 死刑囚の手記より(1956/仏)
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ブレッソン作品は日本でなかなか見ることができなくて、この作品も1957年に上映されて、カンヌで監督賞を受賞してようやく一般の目に触れることになったようです。同じ年にワイラーの『友情ある説得』がパルム・ドールを受賞してたり、フェリーニの『カリビアの夜』が上映されていたりする年ですね。
ブレッソンの作品はいずれも画面に緊張感がみなぎっていて、この作品とか『スリ』などはブレッソン作品で最も切れ味鋭い作風となっています。決して感情的であったり、情熱的であったりしないで、あくまでも状況を極限まで絞って淡々と描いている。彼も画家を目指していた人ですが、画家の作品ではありません。あくまでもシーンのひとつひとつを限定し、セリフにも無駄がない作品と言えるでしょう。
タルコフスキーがブレッソンを高く評価して、その作品群を絶賛していましたが、いずれも自分を追い込んで映像に爆発させる手法です。その意味で非常に芸術性の高い作品ですし、見方によっては現代美術の先端を行っていたのではないでしょうか。
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岩波ホールで再見しました。
やはりすごい映画でした。
ブレッソンの魅力とは、ディテールのこまやかさと、感情表現を極力抑制した映像の切れ味ですね。
この作品の後に『スリ』が作られますが、正に彼の真髄がこの映画から伝わります。
ナチに捕われたフランス軍中尉が、刑務所から脱走するまでを克明に描いています。
脱走することに緊張感は映像全般から怒涛のように流れてきて、その迫力に圧倒されます。
実はこの作品を再見する前日黒澤明監督の『白痴』を見たのですが、『白痴』で表現されている表情の変化は、ブレッソンの作品で抑圧され、音楽的な表現もオミットされています。
もうとにかく冒頭のパトカーから脱出するシーンから緊張しっぱなし。
この緊張感は編集の技量とか、映像の美学とかを超越していて、見る者を唖然とさせます。
すごい映画でした。
ラスト、脱走した二人が橋を渡って画面の向こうに去って行くシーンもとてもインs尿的です。この二人の行く末が全く見えない闇の奥に消えてゆくその不安定な心情がひとつの画面に凝縮されているんですね。
2010/03/21 岩波ホール
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