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[コメント] あの子を探して(1999/中国)

チャン・イーモウというだけで価値のある映画です。
chokobo

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







今の中国をうかがうと、とても想像できないような現実がこの映画の中には溢れいてます。チャン・イーモウ監督の作品は『紅いコーリャン』から始まって、中国という国で少し前まで現実だったことをリアルにリアルに演出しています。

この映画と同時期に『初恋のきた道』でも同じ思いを抱きましたが、彼の現実は文化大革命よりずっと昔の、本当の中国の姿に立ちすくんでいるのでしょう。そこから決して動こうとしない。あの昔の中国の現実を重く残したまま、登場人物の視点を変えることで、映画としてのドラマチックな部分を浮き立たせていますね。すごい演出です。

この映画に限らずですが、彼の作品は他のどの国のどの映画手法をも組み入れることのできないオリジナリティーに溢れています。

この映画も全く無名の俳優と子供達だけで演技をさせて、その周囲に流れる長い長い時間の中で、1人の小さな少年が学校を飛び出して都市へ向かい、それを追いかける少女の教師の一途な意思と粘りを淡々と描きます。

それは、かつて日本が戦後の映画で時々見せた貧しい国の現実ですね。何をやってもうまくゆかない。それでも、ただひたすら少年を探し出すためだけに、全力で粘る姿。これこそが生きる姿ですね。

放送局の局長がこの少女の困難を知り、彼女がテレビに出て、コメントを求められても何も答えられない。この何も出来ないという現実こそが、貧しい者の本当の姿なんだろうと認識します。

黄色い大地で過ごす田舎の小学生と、この小学生を代理で教えることになって13歳の少女のやりとりが、最後のたくさんの色のチョークで黒板に書かれる文字で癒されてゆく。そんな色使いも見事だなぁと思いました。

多くの日本人はこの映画を観てどのように感じることができるのでしょう?

日本人は成長という名のもとに、このような貧しさをすっかり忘れてしまいました。

そして当の中国はきっと、もっともっとこの現実を過去のものにしようとしているのでしょう。世界2位の経済大国になろうとする中国が忘れてしまいそうな夢のような世界。でもこれが現実であることを忘れないためにも、この映画が歴史を超越して残る価値のある映画であることを予感させますね。

素晴らしい映画でした。

2010/01/31(自宅)

(評価:★5)

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