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[コメント] 無宿(1974/日)

けして口にしてはいけない言葉。「永遠」。
町田

**ネタバレ注意**
映画を見終った人むけのレビューです。

これ以降の文章には映画の内容に関する重要な情報が書かれています。
まだ映画を見ていない人がみると映画の面白さを損なうことがありますのでご注意下さい。







高倉健、梶芽衣子、山城新伍、三上真一郎、安藤昇といった東映任侠メンツの中に自ら「異物」として、『フィッツカラルド』顔負けの山師の役柄そのままに、飛び込んだ勝新の意図は奇跡的な成功を納めている。冒頭から終わりまで心地良い違和感を愉しむことが出来た。

斎藤耕一の映像美も満喫。半開きの襖の先にのびるあぜ道や、門を潜る高倉、勝と梶が横切る土蔵前の土手、などの固定ショットはいわずもがな、随所で挿入される移動ショットも実に流麗。草や海の色合いは実物より数段美しいことだろう。ジャンプカットなどの省略技法も効果的。

高倉健は自分のスタイルを崩していないようでいて実際には的確に自分の役を把握しているように思える。祭ではぐれる梶を追う目の動き、また終盤の勝を見つめ微笑む梶を盗み見る目の動きは色白の男前俳優の百万言より有意義だ。

梶芽衣子の白痴的演技もいい。というか可愛い。メソッド演技ってのはこういうんじゃないかと勝手ながら思った。勝の背中で海を見たときの喜びようはこれが『女囚さそり』や『修羅雪姫』と同一人物かと疑わせた。

中島丈博の脚本は、確かに『冒険者たち』を強く意識してはいるが、『祭りの準備』や『津軽じょんがら節』で示した作家性が一切失われておらずむしろ強い好感を抱いた。自由の希求、自己解放、永遠への憧れと死。

彼が描く死は非情で残酷であると同時に、限りない優しさと充足感に充ちている。

あの三人はけして不幸なんかじゃない。永い永いトンネルの切れ間に、一瞬で消え去る太陽を掴みとることが出来たのだから。

(評価:★5)

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このコメントを気に入った人達 (2 人)寒山拾得[*] sawa:38[*]

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