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[コメント] 鉄砲玉の美学(1973/日)

「わいにかて、鉄砲ぐらい撃てまっせ。」
町田

負け犬の遠吠えとして、これほど真に迫るものは無い。表題にある「美学」なんてもののカケラさえも見えてこない。

この頃の渡瀬恒彦は何を見ても圧倒的だ。助演で出れば主演を喰い、主演で出れば彼だけの映画になってしまう。生まれながらのスターであった実兄・渡哲也とはまるで正反対の、真の意味でのアウトロー俳優。アンチ・ヒロイズムに徹底した’70年代日本映画の鉄砲玉。

「彼だけの映画」と書いておいて矛盾するが、助演陣も素晴らしい。これは役者の演技力云々、というよりは大手制作会社のスターシステムのシガラミから脱したキャスティングの勝利と云えるだろう。とりわけ主人公・小池清の内妻を演じた女優さんがいい。終盤のホテルで見せる佇まいなんか最高だ。遠藤辰雄の声だけを使う、というのも面白い。コンセプチュアル(*)でしかも、テキメンの効果を上げている。

画面と音楽。清が潤子(杉本美樹)に馬乗りになるシーンのシネマスコープ縦使い。それが深作作品の模倣であろうともパワフルであることに変わりはない。音楽はいい意味でヘタクソだ。頭脳警察も勿論そうだが、杉本が半裸で清を迎えるシーンの「シュビドゥビ・・・」ってのも、洒落かマジか判らんが、とにかく馬鹿馬鹿しくて面白かった。

アウトロー、遊撃の美学、なんて云われる中島貞夫だが、この後は結局、東映の娯楽映画専門の職人的監督、率直に云えば腕の悪い企業作家に堕してしまう。それらの劣悪な作品をたくさん見ているだけに作家として彼を全面的に評価する気には、今更、到底なれないが、しかし、この映画、『鉄砲玉の美学』が日本映画史に燦然と輝く傑作であるということには、些かの異論もない。

*・・・他の細かい点について。小池清の上着に日の丸が刺繍されているが、これは明らかに特攻隊との関連性(**)を示唆しているのだろう。平易な発想だが、さりげない見せ方に好感を持った。

**・・・勿論、この映画は、先の軍隊映画や後の実録やくざ映画のように個人対組織の関係性にスポットを当てたものではない。この映画に於いて「組織」とは、遠藤辰雄らの声のみによって認識される、”実測不能の巨大なモノ”として描かれる。(それを以って「天佑会」とはよくぞ名付けたものである。)”巨大なるモノの脅威”は対象をやくざ組織や軍隊組織に限定しない。だから、この映画の興味は「人間そのもの」にのみ向けられている、といっていい。そう、これは「Drama」であるのだ。

(評価:★5)

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